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「22世紀」。遠い未来というイメージですが、今の子どもたちは現在の平均寿命(2021年=女性が87・57歳、男性が81・47歳)まで生きれば、その目で見るかもしれない世界です。どんな日本を残していくのか。それを真正面から問うた1冊の小説が、霞が関、永田町で読まれています。【くらし医療部・横田愛】
秋の臨時国会冒頭。「いま一度、いま一度、すべての国民が人口減少を自らの問題としてとらえ、今の流れを変えることに、勇気を持って挑戦してみようではありませんか」。所信表明演説の3分の1以上の時間を割いて「首相」が訴えたのは、人口減少問題だった――。
3日に所信表明演説に臨んだ岸田文雄首相の言、ではない。訴えの主は、202X年9月に与党政友党の総裁選を制し、首相に就任した佐野徹首相。小説「人口戦略法案」(日本経済新聞出版)で描かれた一幕だ。
小説は昨年11月に出版された。著者は、厚生労働省元幹部の山崎史郎さん。介護保険の制度創設に深く携わり「ミスター介護保険」とも称される。「政策立案のアイデアマン」(与党幹部)として知られ、官僚や政治家の間にも幅広い人脈を持つ。
物語では、海外のシンクタンクが「『小国』に向かう日本」と人口減少を警告するリポートを公表。この直後に発足した佐野政権が、人口減少問題を政権最大の課題と位置づけ、出生率向上策を盛り込んだ「人口戦略法案」の国会提出に奔走する様子が、リアリティーたっぷりに描かれる。
2053年に1億人を切り、2110年には5343万人まで減ると推計される日本の総人口だが、いかにして「1億人国家」を維持するか、というのが佐野政権が掲げたテーマだ。
出生率の底上げには、生まれてから育つまで一貫した支援が必要だ。そう考え、自営業者や専業主婦も含むすべての親を対象とした新たな育児休業制度の導入と、児童手当の充実を提起する。さらに、財源確保のため国民・企業からの保険料と公費負担からなる「子ども保険」の創設を訴え、6・8兆円の確保を試みる――。
この先はネタバレになるのでやめておくが、フィクションとはいえ、登場人物の口を借りて説明される膨大なデータや国内外の政策分析は、すべて実際のもの、という点がポイントだ。体系的に少子化問題の論点が整理され、勉強になる。
だが、霞が関や永田町でこの本が関心を集める理由は、それだけではない。著者本人が…
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