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時速194km暴走は「危険運転」でないのか 衝突で犠牲、憤る遺族

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元少年が運転していた乗用車=遺族提供
元少年が運転していた乗用車=遺族提供

 法定速度の3倍超となる時速194キロでの暴走は危険運転ではないのか――。2021年2月、19歳の少年が運転する高級外車が猛スピードで別の車に衝突し、運転していた50歳の男性が死亡した。ただ、少年が問われた罪は過失運転致死。納得のいかない遺族らは、危険運転の適用を求める約2万人分の署名を11日、地検に届ける。

 「(少年が)あれほどスピードを出さなければ、命を落とすことはなかった」。亡くなった大分市の会社員、小柳憲さん(当時50歳)の母親(83)が憤る。

 事故は21年2月9日午後11時ごろ、同市大在の県道交差点で起きた。

 起訴状などによると、当時19歳だった元少年(21)は法定速度60キロの県道で、独BMW社製の乗用車を時速194キロで運転。対向車線で右折しようとしていた、小柳さんの運転する乗用車と衝突し、小柳さんを死亡させたとされる。

 遺族によると、小柳さんは事故当時、シートベルトをしていたが、衝撃でベルトが切れて車外に放り出されたとみられる。

 事故について任意捜査を続けた大分県警は、元少年の運転について「制御困難な高速度」と判断。元少年を21年4月、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)容疑で書類送検した。

 その後、大分地検は5月に元少年を大分家裁へ送致し、家裁は同月、検察官送致(逆送)を決定。地検は逆送から1年以上が過ぎた22年7月、「(危険運転を)認定し得る証拠がなかった」として、罪名を過失運転致死に切り替えて元少年を在宅起訴した。

 01年に創設された危険運転致死傷罪は従来よりも極めて重い罰を与えるため、適用範囲は限定されている。該当するには①アルコールか薬物の影響で正常な運転ができなかった②車の進行を制御できないほどの高速度だったか、制御する技能がなかった③危険な速度で赤信号を意図的に無視した――などの要件を満たす必要がある。

 今回のケースでは、元少年の運転が②に相当するかどうかが焦点となる。

 同様の事例を見ると、20年5月に「大阪港咲洲(さきしま)トンネル」(大阪市、制限速度50キロ)内で大型バイク2台が時速250キロ前後で暴走し、お互いに接触して男性2人が負傷した事故は、危険運転致傷容疑で書類送検されている。

 一方、津市の国道で18年12月に時速146キロで走行していた車がタクシーと衝突して5人が死傷した事故では、車が衝突直前に接触を避けるため車線を変更していたとして名古屋高裁が21年2月、「進路を制御できなかったとは証明されていない」と危険運転致死傷罪を否定した1審判決を支持する判決を出している。

 大分地検の担当者は遺族に対し、危険運転致死罪を適用しなかった理由について「(元少年が)カーブを曲がり切れていないなら危険運転の証拠になるが、直線道路で走行を制御できていた」などと説明したといい、地検は②に当たらないと判断したとみられる。

 危険運転致死傷罪の場合、罰則の上限は懲役20年だが、今回のケースのような過失運転致死傷罪での上限は7年となる。地検の判断は遺族にとって決して納得がいくものではなかった。

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