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ノーベル賞

「世界で最も権威のある賞」といわれるノーベル賞。今年はどんな研究・活動に贈られるでしょうか。

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アインシュタインも誤った ノーベル受賞者が開拓した新世界

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ノーベル物理学賞の受賞者をモニターに映し、発表したスウェーデン王立科学アカデミーの記者会見=10月4日、AP
ノーベル物理学賞の受賞者をモニターに映し、発表したスウェーデン王立科学アカデミーの記者会見=10月4日、AP

 2022年のノーベル賞の自然科学3賞に、欧米の計7人の受賞者が決まった。いずれもこれまでになかった研究分野を開拓し、それが発展して予想外の成果を生み出す「ブレークスルー」を起こしたことが特徴だ。それぞれの研究を振り返る。

医学生理学賞/人類の起源に迫る新手法

 医学生理学賞に輝いた独マックスプランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授は、絶滅した古代人類の骨からDNAを抽出して解析する方法を確立。考古学と生物学を融合させて人類の起源に迫る「古ゲノム学」という新たな分野を切り開いた。

 生命の設計図とされるDNAは、人類の進化や起源を解き明かす重要な手がかりになる。1990年代末までにヒトのほぼすべてのDNAの並びが解読され、チンパンジーなど類人猿とヒトの違いも、DNAの解析からわかるようになった。

 しかし、すでに絶滅した古代人のDNAは、断片になっていたり他の生物のDNAが混じっていたりして、解読は不可能とすら考えられていた。

 ペーボさんは、約3万年前に絶滅したとされるネアンデルタール人のDNA解読を目指した。97年、細胞内にあるミトコンドリアのDNA解読に成功。DNAを高速で解読できる次世代シーケンサーという装置を使い、10年にはすべてのDNA配列を解読した。

 そこで明らかになったのが「人類の祖先とネアンデルタール人は交配しており、一部の遺伝情報が現代人に受け継がれている」という驚きの事実だ。ペーボさんによると、その遺伝子は現代人の遺伝子全体の数%ある。

 ネアンデルタール人の遺伝子は、われわれの体質にも影響を及ぼしている。その一つが新型コロナウイルスの重症化だ。最新の研究成果によると、アフリカ以外に住む人の約50%、日本人も約30%がネアンデルタール人由来の重症化を防ぐ遺伝子を持っている。同じ由来の、逆に重症化を促す遺伝子を受け継ぐ人もおり、南アジアでは最大6割いるが、日本など東アジアではほとんど持っている人はいないという。

 ペーボさんは4日の記者会見で、古代人と現代人それぞれに特有の遺伝子がどんな働きをするのかを調べることで「なぜ現代人だけがこれほどまでに栄えたのか突き止めたい」と語った。

 医学生理学賞は、生命機能の解明や治療薬の開発などに与えられることが多く、人類学や進化生物学での受賞は異例と言える。国立遺伝学研究所の斎藤成也特任教授(分子遺伝学)は「人類学は直接は役に立たないけれど、ヒトの祖先、進化の研究に光があたることはとてもうれしい」と話す。

物理学賞/アインシュタインの疑問に決着

 物理学賞を受賞する仏パリ・サクレー大のアラン・アスペ教授、米国のジョン・クラウザー博士、オーストリア・ウィーン大のアントン・ツァイリンガー名誉教授は、アインシュタインも悩ませた量子力学の長年の「謎」に実験で決着をつけた業績が評価された。

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