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異次元の10年

日銀の黒田東彦総裁が2023年4月に任期満了を迎えます。黒田・日銀が展開した「異次元」の金融緩和の功罪を追います。

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異次元の10年

国民に信じてもらえなかった「物価上がる」 日銀の根拠なき金融政策

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渡辺努・東大大学院教授=山本晋撮影
渡辺努・東大大学院教授=山本晋撮影

 世界で物価上昇(インフレ)が止まらない。日本でも食品などの値上げラッシュが続き、物価がじわじわと上がっているが、「物価の番人」と呼ばれる日銀の黒田東彦総裁は「賃金の上昇を伴う形での物価上昇ではない」として異次元の金融緩和を継続する姿勢を崩そうとしない。

 黒田氏の思惑はどこにあるのか――。それを探るため、物価研究の国内第一人者、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授を直撃した。渡辺氏は日銀OB。黒田総裁が今年6月、「家計の値上げ許容度は高まっている」と発言して猛批判を浴びた際、根拠として渡辺氏が実施したアンケート調査をあげるなど日銀も強い信頼を寄せる人物だ。取材は歴史的なインフレを体感している欧州総局(ブリュッセル)の宮川裕章総局長が担当した。

米欧、コロナの「後遺症」深く

 ――主要国の物価の動きをどう見ていますか。

 ◆一番分かりやすいのは米国で、新型コロナウイルス禍を原因とした人手不足によるインフレが起きている。コロナ禍からの経済の再開で需要が急増した一方、供給面では解雇されるなどした人たちが、新しい職に就かないケースが多く、早期退職も増えている。企業は労働力不足によって生産のレベルを十分に上げることができないため、人材を獲得するために賃金を上げる。こうして物価が上がっている。

 需要面では、サービスからモノへのシフトが起きている。簡単に言うと、新型コロナに感染しないようにレストランで食事するのを控え、肉を買って自宅で調理する人などが増えている。その影響でモノの値段がどんどん上がっている。いずれもパンデミック(世界的大流行)の後遺症と言える。

 欧州もコロナ禍から経済が再開する中、労働供給は減っているが、欧州の企業は米国ほどには労働者を解雇せず、一時休職などで労働者との関係を保った。そのため米国と比べると、経済の再開に対し、労働力が比較的供給されている。

 ――ウクライナ情勢の影響は各国にどう影響していますか?

 ◆ロシアによるウクライナ侵攻の影響は、米国より距離的にも近い欧州の方が大きい。天然ガスや原油をロシアに依存してきた国も多いため、エネルギー価格の上昇が物価を押し上げている。ただ、ロシアによるウクライナ侵攻開始が今年の2月だったのに対し、インフレは昨年から起きている。インフレの主たる要因はウクライナ情勢ではなく、欧州でもパンデミックの後遺症だと見ている。

日本、デフレとインフレが併存

 ――日本も物価上昇は起きていますが、欧米ほどではありません。

 ◆米国や欧州と状況が全く異なるのが日本だ。…

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