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政府は「誰一人取り残されないデジタル化」を掲げる。そうした理念に反する政策ではないか。
現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、機能をマイナンバーカードに移す方針を政府が決めた。保険診療に不可欠なため、カード取得を義務化するのに等しい。
任意としているマイナンバー法と整合するのか、国会での議論が必要だ。
確かに利便性は高まるだろう。転職などの際に保険証を切り替える必要はなくなり、診療事務のミスも減る。医師が投薬履歴を確認して診療に生かすこともできる。
政府はかねてマイナ保険証への一本化を目指していた。ただ、期限は設けず、普及状況や医療機関の態勢などを考慮して決めるはずだった。
カードの交付開始から7年近いが、国民の半分しか持っていない。対応できる医療機関も約3割にとどまる。あと2年で浸透するのだろうか。実情を考慮しているとは言いがたい。
今回の方針の背景には、なんとかしてカードを普及させたい政府の思惑がある。取得者へのポイント付与などで普及を促してきたが、思ったほど広がらない。
取得手続きのわずらわしさだけが理由ではあるまい。政府が個人情報を管理し、データを活用することへの不信や不安は根強い。
カードを持ちたくない人が保険診療を受ける仕組みはあるのか。紛失時にはどう対応するのか。いくつも疑問が湧き上がるが、具体策はこれから検討するという。
マイナンバー制度を暮らしに役立てる施策は必要だ。生活に苦しむ人への支援を迅速に行い、行政手続きを効率化できる。
欧米を中心に共通番号制度が定着した国もあるが、日本では、政府に個人情報を握られることへの警戒感が払拭(ふっしょく)されていない。拙速は避けるべきだ。
政府のデジタル化は、トップダウンで期限を定め、強引に進めようとする手法が目立つ。国と地方のシステム共通化でも25年度の目標を掲げるが、間に合うのか疑問視する自治体が多い。
成果を急ぐあまり、混乱や不信を招いては本末転倒である。国民に対し丁寧に説明し、理解を得る手続きを怠ってはならない。