監視資本主義の規制に動く世界 日米、EUの対応は
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個人データを乱用する巨大IT企業の「監視資本主義」に警鐘を鳴らすハーバード大経営大学院名誉教授のショシャナ・ズボフ氏。毎日新聞の取材で、欧州連合(EU)が取り組む巨大IT規制法案を、監視資本主義から「民主主義を救い出す」ためのきっかけになり得ると評価した。EUではどのようなルール作りが進むのか。米国や日本の現状は――。
アルゴリズム「透明化」に動いたEU
「巨大ITはあまりにも長い間、無法地帯で利益を得てきました。デジタル空間は西部劇の世界のように強者がルールを決めてきたのです。しかし、街には新たな保安官がやってきます」
EUの欧州議会は7月5日、巨大ITに対する二つの規制法案を可決した。法案を推進したクリステル・シャルデモーズ議員は議場でこう訴えた。
一つは、違法コンテンツや偽情報対策を明記し、個人データを利用した広告配信を制限する「デジタルサービス法」(DSA)案。もう一つは、巨大ITによる不公正な競争状態を是正するための「デジタル市場法」(DMA)案だ。DSAは2024年、DMAは23年にも施行される。
ズボフ氏は、これらの法律が監視資本主義と民主主義の攻防を巡る「チェス盤を変えた」と言う。特に価値を認めるのが、DSAに盛りこまれた「レコメンド(お勧め)機能」などに関する「アルゴリズムの透明化」だ。アルゴリズムとはコンピューターがデータ処理などをするときの手順のこと。検索サイトやネット交流サービス(SNS)などで、どのような情報を優先的に表示するかはアルゴリズムが決めている。
ズボフ氏が監視資本主義と呼ぶビジネスモデルでは、巨大ITは利用者のデータの収集と、利用者の行動の把握、予測、操作を「商品」化した。「商品」は個々の利用者の好みに合わせてネット広告を配信する「ターゲティング広告」などに利用される。「商品化」の根幹は利用者データの収集だが、サイトに多くの利用者を引きつければ引きつけるほど、「無料の原材料」である個人データを獲得できる。
より多くのデータを集めるため、刺激的なコンテンツなどを優先するアルゴリズムが組み込まれ、偽情報や有害情報の拡散などを引き起こしていると指摘される。また、ギャンブルに依存する傾向が強い人に賭博関連の広告を配信するなど、個人データから消費者を分析し、心理的な弱みに付け込んだ商品の売り込みが行われているとも批判されている。
DSAは、巨大ITに対し「当局や特定の研究者がアルゴリズムにアクセスできるようにしなければならない」と定める。アルゴリズムの仕組みは巨大ITの収益構造の核心だが、これまで外部から検証できない「ブラックボックス」となってきた。ズボフ氏は「民主的な政府の職員がエンジンルームを見て、何が起こっているのかを理解することができるようになる」と述べ、この法規制の意義を強調した。
DSAではほかにも、ヘイトスピーチ、児童ポルノなど違法コンテンツの排除の義務化▽ターゲティング広告の未成年への配信の禁止▽宗教や性別、性的指向などのデータのターゲティング広告への利用禁止――などを求める。これらはすべて、巨大ITのビジネスモデルにメスを入れようとするものだ。一方、DMAでは、巨大ITが他社と競合する自社のアプリやサービスなどを自社のプラットフォーム(サイトなど)で優遇して提供しやすくすることなどを禁じ、その独占的な力の制御を目指す。
デジタル空間のルール作りを巡り、EUはすでに18年、世界で最も先鋭的な個人データ規制とされる一般データ保護規則(GDPR)を施行、ネット上などで収集した個人情報の保護を大幅に強化した。この法律は欧州のみならず、世界各国の企業や政府に影響を与える国際的な基準となった。EUはDSAとDMAについても「国際基準化」を念頭に置く。
EUのデジタル規制は人権や民主主義の観点から進められるが、そこには、ルール作りの主導権を握ることで、米国の巨大IT企業に牛耳られたデジタル市場で欧州の影響力を強める思惑もある。
巨大IT側はロビー活動で対抗
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