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デジタルを問う 欧州からの報告

欧州では人権や民主主義の視点でデジタルテクノロジーのあり方を問い直す動きがあります。現場から報告します。

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監視資本主義に行動を操作される私たち 専門家が指摘する対抗策

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米ハーバード大経営大学院名誉教授のショシャナ・ズボフ氏=提供写真(ⒸMichael D. Wilson).
米ハーバード大経営大学院名誉教授のショシャナ・ズボフ氏=提供写真(ⒸMichael D. Wilson).

 オンライン取材に応じたハーバード大経営大学院名誉教授のショシャナ・ズボフ氏は、監視資本主義の仕組みによって私たちは「気づかないうちに行動を操作され、修正される」と指摘。デジタル空間を「自分たちでコントロールする」ために、民主主義の枠組みによって現状を変えていく必要があると訴えた。【ブリュッセル岩佐淳士】

グーグルが見つけた「革命的な仕組み」

 ――あなたが監視資本主義と呼ぶ仕組みについて教えてください。

 ◆監視資本主義はグーグルから始まりました。それは2001年ごろ、ドットコム・バブル(ITバブル)が崩壊し、多くのITベンチャーが倒産していた時期でした。生き残りを図るグーグルが見つけたのが、(検索サービスなどの)ユーザーの行動データ。何に興味を持ち、何を検索しているかのデータから、その人がどんな物を買いそうなのかが分かることを発見しました。そして、それが広告業界に革命を起こすことを理解したのです。

 それまで広告主は商品との関連性に基づき掲載するスペースを選び、配信していました。しかし、グーグルは(行動データを利用し)どんな広告であれば、利用者が実際にその広告をクリックするかを予測して配信できる。グーグルの狙いは大当たりし、収益は01年から04年までに3590%も増加しました。

 グーグルのデータサイエンティストは、サーバーに残されたデータを集めるなど、ネット上に利用者が残したあらゆる痕跡を拾い集め、利用者の包括的なプロフィル(人物像)を作成し、予測のためのデータベースを構築していきました。

 こうしたプロジェクトを、グーグルは秘密裏に行いました。なぜなら、彼らは自分たちの利潤追求がプライバシー侵害だと批判されることを理解していたからです。だから、片側からしか見えないマジックミラーを使うようにして利用者を一方的に監視する仕組みを必要としたのです。

 資本家は常に市場の外にあるものの中から、市場で商品化できるものを探しています。グーグルの画期的な発見は、人間の行動が商品化できるということでした。

 監視資本主義では、今や人間の行動の予測だけでなく、人間の行動の修正までもが商品化されてしまう。そのために膨大なデータを取得する。そしてそれは、あらゆるところで、こっそりと行われているのです。

 ――あなたは著書で、そのような市場では、私たちは顧客でも商品でもなく、真の顧客である広告主などの他者の目的を達成するための手段に過ぎない、と指摘しています。そして、他者の市場目的を果たす手段に変えるために私たちの経験を操る「監視資本」の力を「道具主義」と呼んでいます。

 ◆人々は現在の脅威を全体主義的な権力として捉えがちです。しかし、道具主義はまったく違った形の権力です。全体主義は人々に特定の方法で行動し、特定のイデオロギーを信じるように強いる。つまり、人々を内面から説得しようとします。しかし、道具主義はデジタルを媒介に私たちの気づかない外部からの刺激で行動に影響を与える。何かを信じろというわけではありません。人々は商業的・政治的なターゲットにあわせて、気づかないうちに行動を操作され、修正されるのです。ひそかに、見えないように、信用させるようなやり方で。

 私はこうした手法を丹念に研究していますが、それは年々強化されています。21年秋に、(米フェイスブック=FB、現メタ=のサービスがネット上の言論をゆがめたり、若者の心身に悪影響を与えたりしているとして内部告発した)フランシス・ホーゲン氏が持ち出した文書の多くには、その巧妙さが示されていました。また、(英データ分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ」が不正入手した個人データを政治広告に利用し、トランプ前大統領の勝利に貢献したとされる)16年の大統領選では、特定の候補に投票させるため、あるいは特定の候補に投票させないために、集団行動のレベルで人間の行動がいかに意図的に操作されるかについて、多くの洞察を得ることができました。

非道だが「違法ではなかった」ため拡大

 ――明らかに民主主義を傷つけるように思われるものであるにもかかわらず、な…

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