ピアニスト・藤田真央さん 「自分の色」を一番出せる作曲家は
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ピアニストの藤田真央さんが、モーツァルトのピアノソナタ全集(全18曲)を全世界で同時リリースした。みずみずしさと遊び心にあふれる藤田さんの演奏は、軽やかで優美なモーツァルトの音楽に新たな命を吹き込んだ。モーツァルトへの思いだけでなく、今年4月に拠点を海外に移してから華々しい舞台が続く今の心境も語ってもらった。【須藤唯哉】
23歳で成し遂げた「大仕事」
ギーゼキング、グルダ、マリア・ジョアン・ピリス、内田光子――。モーツァルトのピアノソナタ全集は、これまで何人ものピアニストたちが名盤を残している。演奏者にとって「大仕事」であることは言うまでもないが、今回、藤田さんは弱冠23歳でそれを成し遂げた。
「いつかはやるだろうと思っていたけど、こんなに早くやるとは思わなかった。でも、モーツァルトがピアノソナタを作り始めたのが18歳だったので、年齢的に今の私とリンクするものがある。モーツァルトが生きていた時代と私が生きている時代が多少なりともクロスすることがあれば、それは絶対的に音楽に生きてくる」
2019年のチャイコフスキー国際コンクールで2位受賞を果たしてから、自身を見つめ直す中でたどり着いたのがモーツァルトだった。「チャイコフスキーの後で、どういうレパートリーでいくのか、ロシアものでいくのかなどと考える中で、モーツァルトに回帰して勉強し直すのもいいかなと思って始めた。それがこんな形になったというのは、願ってもいない素晴らしいことですね」と喜ぶ。
ホロビッツと同じ場所で同じ曲を
21年夏、スイスのベルビエ音楽祭での5回にわたるピアノソナタの全曲演奏会が評判を呼び、ほどなくしてベルリンで今作の録音に入った。日本でも3年かけて全曲演奏するプロジェクトが進行している。
それまでモーツァルトのソナタは、意外にも3曲程度しか弾いたことがなかったという。その中にはチャイコフスキーコンクールで演奏した第10番(ケッヘル番号330)が含まれている。
第10番は、藤田さんが敬愛してやまないピアニストのホロビッツが1986年にモスクワ音楽院大ホールで演奏している。約60年ぶりに祖国に戻って開かれた伝説的なリサイタルで、映像化もされている。その演奏に感銘を受けた藤田さんは、約30年後のチャイコフスキーコンクールでホロビッツと同じ舞台に立ち、他の出場者の多くがベートーベンのピアノソナタを選ぶ中で、モーツァルトの第10番を弾いた。
「ホロビッツは私のアイドル。本当に憧れて、憧れて。音の作りが繊細ですばらしいし、こんなに魅力的な音色が出るんだと思った人。私も同じ場所で同じ曲を弾きたいと思って、それで弾きましたね」
「自分の音というものが出てきた」
弾いたことがなかった残りの15曲については新たに向き合った。普段、録音を聴くことは少ないが、今回は先人たちの名盤にも耳を傾けたという。「でも、それをまねるという手法はあまり好きではない。メディアが発達して、いろんな音楽に触れる機会は格段に増えた。もしそれらを自分の演奏に取り入れるとしたら、コピーであって、それを聴けばいい」
そう言い切った上で、藤田さんは力を込める。「なぜ私の演奏を聴きたいのか、それは私…
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