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先月のピカイチ 来月のイチオシ

毎月数多くの公演に足を運び耳を傾けている鑑賞の達人が、1カ月で最も印象に残った演奏と、これから1カ月で聴き逃せないプログラムを紹介します。

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先月のピカイチ 来月のイチオシ

首席指揮者ルイージ&N響、新たな船出に喝采と期待……22年9月

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ルイージの首席指揮者就任披露も兼ねて行われたN響の9月定期 (C)NHKSO
ルイージの首席指揮者就任披露も兼ねて行われたN響の9月定期 (C)NHKSO

 海外アーティストの来日公演もコロナ禍前の状況に戻りつつある今秋、聴衆を魅了する名演が各所で披露され、久々の活況を呈している。そこで今月は選者の皆さんに9月に開催されたステージからピカイチを、11月に予定されている公演からイチオシを紹介していただきます。

◆◆9月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第561回定期演奏会〉

9月23日(金・祝)フェスティバルホール

尾高忠明(指揮)/池田香織(ソプラノ)

ワーグナー:「リエンツィ」序曲、「ヴェーゼンドンク歌曲集」(ヘンツェ版)、「神々の黄昏」より「ジークフリートのラインへの旅」「葬送行進曲」「ブリュンヒルデの自己犠牲」

大編成でワーグナーを重厚に響かせた尾高と大阪フィル。ソリストは池田香織 (C)飯島隆
大編成でワーグナーを重厚に響かせた尾高と大阪フィル。ソリストは池田香織 (C)飯島隆

〈河村尚子 シューベルトプロジェクト第2夜〉

9月13日(火)紀尾井ホール

河村尚子(ピアノ)

シューベルト:「楽興の時」第3番、「3つの小品」第3番、「即興曲」Op.90-3、ピアノ・ソナタ第20番、同第21番

~見事の一言、尾高&大阪フィルのワーグナー~

 弦16型(第1ヴァイオリン16人、以下それに応じた奏者数)の大編成を採った大阪フィルの雄大で重厚な演奏、それを自在に制御する尾高忠明の劇的かつ造型的な指揮、美しく深みのある池田香織の感情豊かな歌唱。まさに見事なワーグナーであった。一方、河村尚子は変幻自在のテンポと強弱を織り込んだ起伏豊かな演奏で、シューベルトのソナタを夢幻的な陶酔から解放し、激しい感情の変化を投入するという清新な解釈を織り込んだ。

◆◆11月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈ボストン交響楽団 日本公演〉

11月9日(水)横浜みなとみらいホール/10日(木)京都コンサートホール/11日(金)フェスティバルホール/13日(日)、14日(月)、15日(火)サントリーホール

アンドリス・ネルソンス(指揮)/内田光子(ピアノ/11、14日)

(9、13日)マーラー:交響曲第6番「悲劇的」/(11、14日)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番「革命」/(10、15日)モーツァルト:交響曲第40番、R・シュトラウス:「アルプス交響曲」他

〈東京交響楽団 特別演奏会 R・シュトラウス:「サロメ」演奏会形式〉

11月18日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール/20日(日)サントリーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/東京交響楽団/アスミク・グリゴリアン(サロメ)/トマス・トマソン(ヨカナーン)/ミカエル・ヴェイニウス(ヘロデ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(ヘロディアス)他

~重量級の作品を名門ボストン響で~

 名門ボストン響の来日は5年ぶり。音楽監督の任期がさらに2025年まで延長されているネルソンスの指揮で、オーケストラの威力が存分に発揮される重量級作品を演奏してくれる。なおネルソンスは11月末に長野市と松本市でサイトウ・キネン・オーケストラをも指揮することになっている。一方、ノットと東京響の「サロメ」は、両者の演奏会形式オペラ・シリーズの一環で、アスミク・グリゴリアンの題名役とともに鮮烈な表現が聴けるだろう。


◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈NHK交響楽団 第1962回定期公演 Aプログラム〉

9月10日(土)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)/ヒブラ・ゲルズマーワ(ソプラノ)/オレシア・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)/ルネ・バルベラ(テノール)/ヨン・グァンチョル(バス)/新国立劇場合唱団

ヴェルディ:レクイエム

〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第354回定期演奏会〉

9月2日(金)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)/竹澤恭子(ヴァイオリン)

エルガー:ヴァイオリン協奏曲/シベリウス:交響曲第4番

~新シェフ、ルイージの劇的で濃密な船出~

 ルイージ&N響の「ヴェルレク」は、劇的かつ引き締まった、濃密で集中力の高い名演。特に、下がりがちな後半のテンションをハイレベルで維持し、雄弁に聴かせ切ったことに感服した。9月は他にも、大野&都響の「グラゴル・ミサ」、ヴァイグレ&読響の「ドイツ・レクイエム」と、声楽曲での好演が続き、いずれも新国立劇場合唱団の貢献が際立った。そうした中、渋いプロで精緻な快演を展開した高関&シティ・フィルを強力な次点に。

◆◆11月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ボストン交響楽団 日本公演〉

11月9日(水)横浜みなとみらいホール/10日(木)京都コンサートホール/11日(金)フェスティバルホール/13日(日)、14日(月)、15日(火)サントリーホール

アンドリス・ネルソンス(指揮)/内田光子(ピアノ/11、14日)

(9、13日)マーラー:交響曲第6番「悲劇的」/(11、14日)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番「革命」/(10、15日)モーツァルト:交響曲第40番、R・シュトラウス:「アルプス交響曲」他

5年ぶりの来日が話題を呼ぶネルソンス&ボストン響 (C)サントリーホール
5年ぶりの来日が話題を呼ぶネルソンス&ボストン響 (C)サントリーホール

〈新国立劇場 ムソルグスキー:「ボリス・ゴドゥノフ」新制作〉

11月15日(火)、17日(木)、20日(日)、23日(水・祝)、26日(土)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/マリウシュ・トレリンスキ(演出)/東京都交響楽団/新国立劇場合唱団/ギド・イェンティンス(ボリス・ゴドゥノフ)/小泉詠子(フョードル)/九嶋香奈枝(クセニア)/金子美香(乳母)/アーノルド・ベズイエン(ヴァシリー・シュイスキー公)/秋谷直之(アンドレイ・シチェルカーロフ)/ゴデルジ・ジャネリーゼ(ピーメン)/工藤和真(偽ドミトリー)他

~米国オーケストラの久々の来日に熱視線~

 ネルソンス&ボストン響は、5年ぶりの来日と、コロナ禍以降初の米国楽団来日の両面で大注目。前回も高機能で隙(すき)のない名演を繰り広げただけに、絆を深めた今のコンビネーションが興味をそそる。プログラムも聴きたい曲ばかり。日本の楽団の音に慣れた今の耳に、米国楽団のサウンドがどう響くかも楽しみだ。新国立劇場の「ボリス」は、史上初の日本の団体による演出付きロシア語上演の成果と、ドラマ表現にたけた大野の指揮に期待。


◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈読売日本交響楽団 第621回定期演奏会〉

9月20日(火)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/ファン・スミ(ソプラノ)/大西宇宙(バリトン)/新国立劇場合唱団

ダニエル・シュニーダー:聖ヨハネの黙示録(日本初演)/ブラームス:ドイツ・レクイエム

ヴァイグレ&読響の「ドイツ・レクイエム」も注目を集めた (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ヴァイグレ&読響の「ドイツ・レクイエム」も注目を集めた (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

〈The spirit of the Moon~月に憑かれたピエロと新作能「月乃卯」〉

9月12日(月)山本能楽堂(大阪)

ケント・ナガノ(指揮)/ハンブルク・フィルハーモニー管弦メンバー/藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)/山本章弘(能楽師)他

シェーンベルク:「月に憑かれたピエロ」他

~静謐を貫いたヴァイグレの「ドイツ・レクイエム」~

 長く歌劇場のカペルマイスター(楽長)を務めてきたヴァイグレらしい声楽プログラムは独唱者、合唱団を演奏会の部分的トッピングとせず、前後半を通じたコラボレーターとしてフルに活用した。北ドイツのプロテスタント信仰の質実さを基本に静謐(せいひつ)を貫くヴァイグレの「ドイツ・レクイエム」は新鮮で、心に染みた。ナガノが日本の能楽師に提案、中秋の名月のタイミングで能舞台に現出させた一夜の幻もまた、深い余韻を残した。

◆◆11月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈ボストン交響楽団 日本公演〉

11月9日(水)横浜みなとみらいホール

アンドリス・ネルソンス(指揮)

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

〈神戸市室内管弦楽団・神戸市混声合唱団 合同定期演奏会〉

11月13日(日)神戸文化ホール

佐藤正浩(指揮)/中村恵理(ソプラノ)

プーランク:スターバト・マーテル、グローリア

~ネルソンス&ボストン響はマーラーに注目~

 ボストン響とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管のシェフを兼務するネルソンスの芸風は大きな変貌を遂げ、40代半ばにしてトップランクのマエストロに躍り出た。ボストンとの来日は5年ぶり。横浜では既にディスクが存在するショスタコーヴィチやR・シュトラウスではなくマーラーを取り上げ、中高生のための公開リハーサルも行うのが興味深い。2023年のプーランク没後60年に先立つ神戸市の意欲的な公演にも注目だ。


◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第1962回定期公演 Aプログラム〉

9月10日(土)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)/ヒブラ・ゲルズマーワ(ソプラノ)/オレシア・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)/ルネ・バルベラ(テノール)/ヨン・グァンチョル(バス)/新国立劇場合唱団

ヴェルディ:レクイエム

〈読売日本交響楽団 第621回定期演奏会〉

9月20日(火)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/ファン・スミ(ソプラノ)/大西宇宙(バリトン)/新国立劇場合唱団

ダニエル・シュニーダー:聖ヨハネの黙示録(日本初演)/ブラームス:ドイツ・レクイエム

~ファビオ・ルイージ×N響 新時代の到来~

 N響首席指揮者に就任したファビオ・ルイージが、最初に選んだヴェルディのレクイエムはとてつもない名演として語り継がれるだろう。冒頭の大編成の管弦楽と合唱が極限までの微音を聴かせた瞬間から心を奪われる。オペラのようなカンタービレをステージ全員で奏でる壮大なレクイエムに新しい時代の到来を感じた。ヴァイグレ指揮、読響のドイツ・レクイエムでも新国立劇場合唱団が活躍。前半のシュニーダーとの対比が興味深かった。

◆◆11月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈新国立劇場 ムソルグスキー:「ボリス・ゴドゥノフ」新制作〉

11月15日(火)、17日(木)、20日(日)、23日(水・祝)、26日(土)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/マリウシュ・トレリンスキ(演出)/東京都交響楽団/新国立劇場合唱団/ギド・イェンティンス(ボリス・ゴドゥノフ)/小泉詠子(フョードル)/九嶋香奈枝(クセニア)/金子美香(乳母)/アーノルド・ベズイエン(ヴァシリー・シュイスキー公)/秋谷直之(アンドレイ・シチェルカーロフ)/ゴデルジ・ジャネリーゼ(ピーメン)/工藤和真(偽ドミトリー)他

「ボリス・ゴドゥノフ」セットプランより
「ボリス・ゴドゥノフ」セットプランより

〈イゴール・レヴィット ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・サイクル・イン・ジャパンⅡ〉

11月19日(土)紀尾井ホール

イゴール・レヴィット(ピアノ)

ピアノ・ソナタ第5番、第19番、第20番、第22番、第23番「熱情」

~ロシア・オペラの金字塔「ボリス・ゴドゥノフ」が世に問うものとは~

 日本の上演団体による演出付きロシア語全曲上演は史上初となる「ボリス・ゴドゥノフ」。新国立劇場開場25周年にふさわしい、芸術監督の大野和士が就任以来掲げてきたレパートリーの多様性の一つの頂点とも言えるだろう。イゴール・レヴィットは前回19年の来日で「ゴルトベルク」「ディアベッリ」「不屈の民」という、とてつもない変奏曲のリサイタルで圧巻のピアノを聴かせた。常に深い解釈と生命力あふれるソナタは聴き逃せない。


◆◆9月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈NHK交響楽団 第1962回定期公演 Aプログラム〉

9月10日(土)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)/ヒブラ・ゲルズマーワ(ソプラノ)/オレシア・ペトロヴァ(メゾ・ソプラノ)/ルネ・バルベラ(テノール)/ヨン・グァンチョル(バス)/新国立劇場合唱団

ヴェルディ:レクイエム

〈読売日本交響楽団 第655回名曲シリーズ〉

9月14日(水)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/辻井伸行(ピアノ)

レズニチェク:歌劇 「ドンナ・ディアナ」序曲/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

~ルイージの就任披露 N響演奏史に残る名演~

 ルイージ指揮N響によるヴェルディのレクイエムは首席指揮者就任披露などの特別な機会だったこともあり、指揮者はもとより、オケの気迫がいつにも増してみなぎり、ダイナミックさと繊細さを兼ね備えた同団演奏史に残る名演となった。詳細はアンコールのコーナーにアップ済の拙稿(アンコール:ファビオ・ルイージ N響首席指揮者就任披露公演)をご覧いただきたい。ヴァイグレと読響の「英雄の生涯」もどっしりとした安定感が際立つ秀演。長原幸太コンマスのソロも良かった。

◆◆11月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈ボストン交響楽団 日本公演〉

11月9日(水)横浜みなとみらいホール/10日(木)京都コンサートホール/11日(金)フェスティバルホール/13日(日)、14日(月)、15日(火)サントリーホール

アンドリス・ネルソンス(指揮)/内田光子(ピアノ/11、14日)

(9、13日)マーラー:交響曲第6番「悲劇的」/(11、14日)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番「革命」/(10、15日)モーツァルト:交響曲第40番、R・シュトラウス:「アルプス交響曲」他

〈新国立劇場 ムソルグスキー:「ボリス・ゴドゥノフ」新制作〉

11月15日(火)、17日(木)、20日(日)、23日(水・祝)、26日(土)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/マリウシュ・トレリンスキ(演出)/東京都交響楽団/新国立劇場合唱団/ギド・イェンティンス(ボリス・ゴドゥノフ)/小泉詠子(フョードル)/九嶋香奈枝(クセニア)/金子美香(乳母)/アーノルド・ベズイエン(ヴァシリー・シュイスキー公)/秋谷直之(アンドレイ・シチェルカーロフ)/ゴデルジ・ジャネリーゼ(ピーメン)/工藤和真(偽ドミトリー)他

~オーケストラの醍醐味、作品の真価~

 ボストン響はどの公演もオーケストラの醍醐味(だいごみ)を堪能することができるプログラムが魅力。内田光子との「皇帝」も楽しみである。ネルソンスはこの後、サイトウ・キネン・オケにも客演予定でこちらも注目したい。新国の「ボリス…」はポーランド国立歌劇場との共同制作。日本ではフルステージ上演の機会が少ない作品だけに、最新プロダクションで名作の真価を味わう絶好の機会といえよう。

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