連載

社説

社説は日々、論説委員が議論を交わして練り上げます。出来事のふり返りにも活用してください。

連載一覧

社説

脳死臓器移植25年 理解広げる努力をさらに

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

 臓器移植法の施行から25年を迎えた。脳死の人から提供された心臓などの移植手術を、国内で受けられるようになった。他に治療法のない患者の命を救う医療として、期待が高まった。

 しかし、25年間の提供者は879人にとどまる。現在の移植希望者約1万5000人のうち、実際に受けられる人は年2%程度だ。

 当初、提供には本人の意思表示が必要とされ、年10人程度で推移した。2010年の改正法施行によって、意思表示がなくても家族の承諾で可能になり、小児からの提供も始まった。

 提供者は年数十人に増えたが、人口100万人当たりで見ると海外を大きく下回る。米国が約30人、英国が約10人に対し、日本は1人に満たない。

 国内の提供者数が少ないため、海外で手術を受ける患者もいる。しかし、渡航先の国で移植を待つ患者の権利を守るため、国際移植学会は自粛を求めている。

 一方、親族から腎臓などの提供を受ける生体移植の割合は、海外より高い。ただし、健康な人にメスを入れる必要がある。

 国内の提供者数をいかに増やすかが、長年の課題だ。

 昨年の内閣府の世論調査によると、移植に関心のある人が6割を超え、提供したい人も約4割に上った。前向きな人の思いを提供につなげる的確な情報提供が求められる。

 移植を支える体制の拡充も急がれる。国の指針で提供が実施できるとされる医療機関のうち、対応可能な施設は5割にとどまる。16~20年には、受け入れ環境が整わないため提供を断念した事例が15例あった。

 あっせん団体の日本臓器移植ネットワークの人手不足も深刻だ。提供者家族の意思確認やケア、医療機関のチェック、臓器の搬送手配など、求められる業務が多く、負担の重さから離職率が高い。

 国内では、脳死を人の死と認めるのは臓器提供の時だけとなっている。提供を承諾した家族が抱える心の重荷を踏まえ、寄り添うことも重要だ。

 移植医療を通じて、一人でも多くの患者を救うためには、国民の理解を広げる一層の努力が欠かせない。

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集