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安倍晋三元首相銃撃

2022年7月8日、演説中の安倍元首相が銃撃され、死亡しました。その後の「国葬」にも疑念が…。

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「来年は衆院選」岸田政権“黄金の3年”なぜ消えたのか

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閣議に臨む岸田文雄首相(左)。右は松野博一官房長官=首相官邸で2022年9月13日午前10時1分、竹内幹撮影
閣議に臨む岸田文雄首相(左)。右は松野博一官房長官=首相官邸で2022年9月13日午前10時1分、竹内幹撮影

 緩んだ空気が一瞬で凍りついた。9月20日夜、東京・平河町の老舗中華料理店で開かれた自民党安倍派の懇親会。塩谷立会長代理ら幹部と衆院当選4回の同派所属議員が7、8人ずつ3卓の円卓に分かれて歓談していた。笑い声に包まれる中、松野博一官房長官が真剣な表情で切り出した。

 「来年は選挙かもしれない。いつあってもおかしくない」

 出席者が静まりかえる中、松野氏は「常在戦場だ。特にサミット後は何があってもおかしくない。選挙を最優先で考えてほしい」と続けた。サミットとは2023年5月に広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)を指す。

 21年10月の衆院選と22年7月の参院選に勝利した岸田政権。衆院議員の任期は25年秋までで、次期参院選は同年夏。岸田文雄首相は参院選後に大型選挙がない「黄金の3年間」を手にするとの見方があったが、今の政権にそんな楽観論はない。

 首相の自民党総裁任期は24年9月まで。だが、毎日新聞と社会調査研究センターが9月17、18の両日実施した全国世論調査では政権発足1年を待たずに内閣支持率は前月から7ポイント減の29%まで落ち込んだ。理由は参院選後の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や安倍晋三元首相の国葬に対する世論の「逆風」だ。

 内閣支持率が急落する中、23年中に衆院解散に踏み切って勝利しなければ、翌年秋の次期総裁選での再選は厳しくなり「レームダック(死に体)化」しかねない――。政権内で重苦しい雰囲気が漂う。

 10月12日午後、首相は首相官邸を訪ねた自民党の遠藤利明総務会長と向き合った。

 遠藤氏は首相が高校時代に所属した野球部で「8番セカンド」だったことを挙げ、「4番(打者)みたいに派手さはなくてもあなたは我慢強い。1年辛抱して次の選挙が終われば、あなたは強くなるよ」と語りかけた。23年中の衆院解散は政権内で既定路線になりつつある。

 霧散した「黄金の3年間」。なぜ、政権はここまで追い込まれたのか。参院選後の動きを検証する。

旧統一教会との決別、8月後半に決断

 岸田文雄首相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との「決別」を決意したのは、新型コロナウイルス感染によりテレワークを始めた8月22日だった。

 「縁を切るしかない。それを徹底しなければならない」。首相公邸から自民党の茂木敏充幹事長に電話した首相は、茂木氏との間でこうした認識で一致した。26日には党所属議員の事務所に教団や関連団体との関係を問うチェックリストを配布し調査を開始した。

 首相を焦らせたのは、世論の「逆風」だ。毎日新聞と社会調査研究センターが20、21両日に行った全国世論調査では、内閣支持率は前月から16ポイント下落の36%。政権は動揺した。「出せるものは全部、表に出そう」。首相は茂木氏と確認した。

 ただ、調査結果で議員の氏名をどこまで公表するかを巡って党内の意見は割れた。9月6日、自民党本部で衆参両院の党幹部が協議した。この時点で関与が判明した議員は179人に上っていた。

 「全部出した場合のメリットとデメリットはどうなのか」。首相が語りかけると、茂木氏は「とは言っても全部出すのはどうなのか」とためらった。

 179人の中には、秘書が教団の関連団体と気づかず祝電を送ったケースなど、明らかに教団との関係が薄い議員も含まれていた。関係の濃淡にかかわらず全員の氏名を公表すれば、党内の反発も広がりかねない。茂木氏の意見に世耕弘成参院幹事長も同調した。

 それに対して遠藤利明総務会長が「全部出せばいい」と主張すると、茂木氏が「だったら遠藤さんがやってみたらいいじゃないか」と声を荒らげる一幕もあった。

 協議の結果、教団や関連団体の会合などに出席するなど主体的に関係したとみられる議員の氏名は全員公表することとなった。対象者は121人。その2日後の8日、調査結果を公表した茂木氏は「率直に反省し、今後は旧統一教会と一切関係を持たないことを徹底する」と宣言した。

 だが、「決別」の判断は他党に比べ大きく後れを取っ…

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【安倍晋三元首相銃撃】

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