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障害者の権利が十分に守られていない現状を早急に解消しなければならない。国連の障害者権利条約の委員会が日本の取り組みを初めて審査し、改善勧告を出した。
条約は、障害のある人が差別を受けることなく、本人の望む場所で暮らし、学び、働けるようにすることを目的に、2006年に国連総会で採択された。障害者たちが「私たちのことを私たち抜きで決めないで」と訴え続けた成果だ。日本は14年に批准した。
勧告が強調したのは、障害の有無にかかわらず共生できる社会の実現だ。障害者が地域で生活できる環境づくりを促した。
教育については、普通学校で学びたいという希望が受け入れられずに、特別支援学校に通わざるを得ないケースを問題視した。実際、障害のある生徒が定員割れの公立高校を受験し不合格となった例もある。障害者の入学を拒むようなことがないよう、「インクルーシブ(包摂)教育」に関する国の行動計画の策定を求めた。
日本は海外に比べて、精神科病院の入院患者数と、平均入院日数がともに突出して多く、かねて「人権上の問題」が指摘されてきた。勧告は強制的な入院を可能にしている法令の廃止を提言した。
障害のある女性を巡る施策も遅れている。意思表示が不自由なことなどから、セクハラ被害を受けやすいと指摘される。放置することは許されず、国は実態把握を進めなければならない。
委員会の勧告に法的拘束力はないが、政府は重く受け止め、障害者の権利を守るために必要な制度改革や仕組みづくりを急ぐべきだ。地域で一緒に学び、暮らすための支援体制の強化や予算の確保も必須である。
権利条約への期待は大きい。今回の対日審査に当たって、障害者団体など9団体が課題や改善点をまとめたリポートを委員会に提出した。ジュネーブで開かれた「建設的対話」と呼ばれる審査には、日本から100人を超す障害者らがかけつけた。
世界の約15%の人に障害がある。日本でも8%近くを占める。障害者の権利が守られる社会になれば、高齢者ら多くの人も暮らしやすくなる。その実現に今回の勧告を生かさなければならない。