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「ごめんなさい」。突然、男性がうわ言のように繰り返す。体は震え、汗が止まらない。中学生だった10年前に同級生十数人から受けた激しい暴行、執拗(しつよう)な現金要求の記憶が、今もふとした瞬間に男性を襲う。いじめ発覚から23日で10年となるのを前に、男性は真相究明のための第三者委員会をいまだに設置しない教育委員会に出向いた。恐怖の日々がいつ襲ってくるか分からない不安の中、男性を突き動かした力とは何なのか。【樋口岳大】
9月7日、いじめを受けた当事者の佐藤和威(かずい)さん(23)は、申し入れ書を手に佐賀県鳥栖市の教育委員会がある庁舎に入った。しかし、いじめ発覚後、市教委や学校に「安心、安全な学校へ戻りたい」と訴えたのに十分対応してもらえなかった記憶がよみがえり、立っていられなくなった。
吐き気を覚えて過呼吸に陥り、父親に支えられて庁外に出るのがやっとだった。支援する弁護士が代わりに申し入れ書を提出した。
10年前、鳥栖市立中1年だった佐藤さんへのいじめは苛烈を極めた。確定した2021年7月の福岡高裁判決によると、12年4月の入学直後から、エアガンで撃たれる▽「プロレスごっこ」と称して暴力を受ける▽現金を脅し取られる――などのいじめを継続的に受けた。
担任の目の前で暴力を受けたこともあった。カッターナイフを振り下ろされて腕に当たる直前に止められたり、顔に殺虫剤をかけられたり、包丁を向けられたりしたこともあった。
佐藤さんの異変に気付いた家族が何度も学校に問い合わせたが「クラスの子たちと仲良くやっている。何ら問題はない」と言われた。10月23日、加害者の一人が学校に話し、いじめが発覚。学校はやっと聞き取りを始めた。家族は佐藤さんの全身に残る傷や大きなあざを見つけ、言葉を失った。
佐藤さんは心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。15年4月、高校へ進んだが、フラッシュバックはなくならなかった。入学直後に校舎5階から…
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