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家族を書くのは大変ではないか。書くこと全てが自分にはね返り、自慢や自己愛と見られることもあるだろう。その辺りを一切感じさせないノンフィクションが朝日新聞記者、永田豊隆さん(54)の「妻はサバイバー」だ。読書家の友人に「これ、すごいよ」と薦められたときは「家族ルポか。現場は家だし取材費もかからないし」と軽口をたたいたが、読み始めた途端に引き込まれた。
永田さんは読売新聞の記者をしていた1999年、30歳の年に26歳の妻と結婚した。3年後に朝日に転職し岡山市で暮らすころから、専業主婦の妻が、食べて吐く摂食障害に陥る。妻は34歳の年に身近な人から性的被害を受け、現実と記憶を混同する症状や自殺未遂が続き、30代後半から酒の飲み方が荒れる。アルコール依存症で自助グループや精神科に出入りするも酒はやめられず、46歳でアルコール性認知症と診断され、ようやく酒から離れる。永田さん自身、適応障害で一時休職している。
朝日の大阪本社に永田さんを訪ねると、しぼりきった雑巾のようにやつれて見えた。「家族ルポのコツを」という私の卑しいもくろみは一瞬で消え、「この人がサバイバーじゃないか」とルバング島の小野田寛郎さんに対するような恥ずかしい気持ちになった。
妻の過食には3年気づかなかった。「お金に苦労した経験がないため、何年も貯金を確かめることがなかった」。給料のいい朝日らしいと思ったが、学生のころからそうだという。…
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