元代理母が突きつける「家族になる責任」 解禁目指すタイの未来は
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タイで2015年以来禁止されていた外国人依頼による代理母出産が再解禁に向け、動き出した。一方で、近年代理母出産の拠点だったロシアやウクライナは、ロシアによるウクライナ侵攻で大きく揺れている。倫理的観点などから議論を呼んできた代理母出産の未来はどのようなものなのか。【バンコク石山絵歩】
双子の1人、置いていった外国人親
「この子は、代理母出産が抱える問題の生き証人だと思う」。タイ東部湾岸沿いの町の小さな一軒家。ここに暮らすグラミーさん(8)を抱きしめながら、生みの母であるゴイことパタラモン・ミンジェロンさん(29)はそう言った。
ゴイさんは2013年、不妊に悩んでいたオーストラリア人カップルと代理母の契約を結んだ。契約金は妊娠期間中の生活費計35万バーツ(約130万円)と、出産後の報酬15万バーツ(同57万円)。当時、自身の2人の子を抱え、働きに出ることができなかったゴイさんにとっては「いい仕事に思えた」という。
契約の約1カ月後、ゴイさんはカップルの男性と別のタイ人女性との受精卵を自身に移植し、双子を身ごもった。しかし妊娠7カ月目に双子の一人であるグラミーさんがダウン症であることが判明。ゴイさんによると、「健康な子どもがほしかった」というカップルと話がこじれ、最終的にカップルは双子の妹だけを豪州に連れて帰り、グラミーさんはゴイさんが育てることになった。ゴイさんは「カップルはグラミーに興味を示さず、施設に出すつもりに思えた。自分が育て親になる選択は間違っていなかったと思う」と振り返る。
この一件はメディアの注目を集めた。カップルは「代理母がグラミーを気に入り、渡してくれなかった」と主張したものの、「身勝手だ」などとしてカップルに批判が集中。この騒動をきっかけにタイは15年、外国人依頼による代理母出産を禁じた。
代理母出産は、不妊に悩む夫婦や同性同士のカップルが子を授かる道として注目を集めてきた。一方で、「旧来の家族観を崩す」「新しい形の貧困層の搾取だ」といった否定的も意見も聞かれ、議論を呼んできた。これらに加え、ゴイさんのケースは、代理母出産で生まれる子どもに先天的な病気がある場合に生じる問題を突きつけた。
「子どもがほしくてもできずに悩んでいる人、私のようにお金に困っている人。人にはそれぞれの事情があり、それを補い合える」。ゴイさんはそう代理母出産の「利点」を指摘する。一方で、代理母出産を希望する人たちに「家族になるということ」について考えてほしいとも語る。「重要なのは、何があっても責任を取ること。家族になる覚悟があるかどうかです」。結果的にグラミーさんを「親」として引き取ったゴイさんの思いだ。
騒動から9年近くがたった。…
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