「縮むニッポン」赤字路線は再生できるか ローカル線の行方/上
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ローカル線が岐路に立っている。日本で鉄道が開業して150年。地方に張り巡らされた鉄路は近代化と国土発展を担ってきた。だが、過疎化やマイカーの普及、新型コロナウイルス感染拡大などで社会が大きく変化。赤字ローカル線は鉄道会社の大きな負担となっており、現状のまま維持し続けるのは難しい状況だ。人口減少で日本全体が縮小するなか、ローカル線、そして地方の公共交通はどうあるべきなのか。現場を取材した。
100円稼ぐのに経費2万円超
宮城県東部の平野部と奥羽山脈の山あいを結ぶJR東日本の陸羽東線。小牛田(宮城県美里町)―新庄(山形県新庄市)の全長94・1キロで、渓谷や田園地帯を縫って2両編成の列車が走る。
10月上旬の平日午前7時半ごろ、東北新幹線の乗換駅でもある古川駅(宮城県大崎市)に向かう車両は、多くの乗客で混雑していた。ほとんどは沿線の高校の生徒たちで、毎日、通学で利用するという古川工業高校2年生の男子生徒(17)は「同級生も多く使っており、なくてはならない鉄道です」と話す。
朝は通学でにぎわう同線だが、昼間になると乗客はまばらになる。ダイヤも1時間に1本程度だ。沿線には東北屈指の温泉街、鳴子温泉郷があるが、この日、鳴子温泉駅(同)で古川方面から到着した列車から下車したのは9人ほどだった。駅前の商店街で名産の工芸品「こけし」を売る土産物店の店主、岸喜恵子さん(86)は「年々観光客が少なくなっているように感じる」と嘆く。
JR東は7月末に初めて、利用者の少ないローカル線の区間ごとの収支を発表した。陸羽東線の鳴子温泉―最上(山形県最上町)の2020年度の収支データは、公表された35路線66区間でワースト1位。100円稼ぐのに2万2149円かかっていた。輸送密度(1日1キロ当たりの平均旅客輸送人員)も41人と最低だった。20年度は新型コロナウイルス感染拡大という特殊要因があったが、その影響が少なかった19年度でも100円稼ぐのにかかる費用、輸送密度はそれぞれワースト3位、2位だった。
比較的利用者が多い古川―鳴子温泉の輸送密度は949人(19年度)。国土交通省の有識者会議は7月に初めてローカル線の見直し基準を示したが、JRについては「輸送密度1000人未満」の路線は存廃を含めて議論するよう求めており、沿線では危機感も広がっている。
「鉄道がなくなると廃れた観光地とみなされてしまうのではないか」。鳴子温泉郷観光協会の菊地英文事務局長は、そう懸念する。20年の宿泊客数は34万人と1995年の103万人から約3分の1に減った。同温泉は駅前に温泉街が広がるのが売りの一つで、マイカーを持たない外国人観光客の呼び込みに鉄道は欠かせないという。
「JRが守ってくれると思っていた」
だが、沿線自治体がこれまで鉄道の活性化に本腰を入れてきたとは言い難い。
「公共性の観点から鉄道は必要なもので、JRが守…
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