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日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。
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10月29、30の両日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されたアナログゲームの祭典「ゲームマーケット2022秋(ゲムマ)」をのぞいてみました。2日間で延べ約890ブース、試遊卓も復活し新型コロナウイルス禍以前とほぼ変わらないフルスペックに。会場の外には入場を待つ長蛇の列ができ、ボードゲームへの関心の高まりを実感しました。
日本人デザイナー凱旋(がいせん)
今年は日本人デザイナーがドイツのゲームシーンでひときわ輝きを放った年でした。世界で最も権威あるボードゲームの賞「ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres、Sdj)」に「SCOUT!」(梶野桂作)がノミネート。ドイツ・エッセンで開かれた世界最大のボードゲームの祭典「SPIEL'2022」の来場者人気投票でトリックテイキングゲーム「キャットインザボックス」(横内宗幸作)が見事1位に。また、革新的な作品を表彰する「innoSPIEL」に協力型リズムカードゲーム「HEY-YO」(斎藤隆作)が選ばれました。
ゲムマ会場では梶野さんと斎藤さんに会うことができました。梶野さんはドイツ年間ゲーム大賞ノミネートを示す「赤ポーン」の看板をブースに設置。「ノミネートはうれしかったが、次回作はプレッシャーがかかります」と気を引き締めている様子。斎藤さんは対照的に「自分は作りたいものをなんとなく作っていきます」とマイペース。「HEY-YO」の元になった同人ゲーム「ファイブラインズ」をブースに並べていました。
「ファイブラインズ」(2~5人用、所要時間5分)は、音源のリズムに合わせてカードを出していく協力ゲーム。カードには五線譜を模した5本の線と勝利点となるマークが描かれており、並べる順番によって点数が伸びていくシステム。リズムに合わせるというプレッシャーによって、協力ゲームにおける奉行問題(特定のプレーヤーの指示でゲームが進んでしまう)を上手に回避しています。
プレミア価格ものや目立つアジア発
同人作品からメーカー作品まで大小のブースが並ぶゲムマ。今回筆者の目を引いたのがプレミア価格が付けられた同人作品です。協力ゲーム「ジニアフローラ」(ノスゲム作)は実に4万5000円。ウッド焦がしの手法を使って一個一個手作りのため10個限定の予約販売のみで完売。独特の世界観とこだわりが評価されたのでしょう。グラフィックデザインが本業の「バナナムーンゲームズ」が制作した「坊茶(ぼっさ)」(所要時間5~10分)は、スタイリッシュな2人用対戦ゲーム。スタンダード版▽クラシック版▽匠(たくみ)のアート版――の3種類が用意され、最高級の「匠のアート版」が作れるペーパークラフト職人は国内に1人だけだとか。1日に2セットしか作れないということなので1万9000円の価格も納得かも。ウクライナ戦争や円安によって紙の価格が高騰したことも響いたといいます。
アジア発のゲームやゲームメーカーも目立ちました。リサイクル会社「フルフルPLUS」(千葉県木更津市)が販売代理店となっている「Lexio」(3~5人用、所要時間20分)は韓国の定番ゲームの一つ。マージャン牌(はい)に似た牌を使い、トランプの大富豪のように早く牌を出し切ったら勝ちです。牌は同じ数字なら複数枚出せるほか、フルハウスのようなポーカーの役を作れば一気に5枚出せるところがミソ。筆者も試遊してみましたが、簡単なルールながら不思議な中毒性があると感じました。このほか中国、日本、欧州など世界中のデザイナー作品を製品化している「Moaideas Game Design」など台湾メーカーの勢いも。日本支部支配人のアフォンさんは「日本では第一印象が大事だと分かってきたので、箱絵のアートワークにこだわっています」。
知育への可能性
同じ図形をぴったりと敷き詰める「テセレーション」という数学の概念があり、アートや生活の場で活用されています。テセレーションを教育に生かす活動を展開している「日本テセレーションデザイン協会」代表の荒木義明さんは数学者。21年にあった数学のオンライン学会で北見工業大准教授の中村文彦さんと知り合い意気投合しました。2色に色分けされた正三角形でアートをつくる「T3パズル」の普及活動をしていた荒木さんと、大学院生時代に正三角形のタイルを使ったゲームを制作していた中村さん。2人の数学者によって生まれたのが2人用アブストラクトゲーム(囲碁や将棋、オセロのような完全情報公開型ゲーム)「トライロード×T3パズル」(所要時間15分)です。
ルールは簡単。六角形のゲームボードに正三角形のタイルを交互に置いていき、辺から辺へ先に道をつなげた方が勝利。正三角形のタイルは上部4分の1が白、下部が青に塗り分けられており、裏返すと逆に上部が青、下部が白となっています。白プレーヤーは白い道を、青プレーヤーは青い道をつなごうとするのですが、当然ぶつかり合いが発生。どうやっても相手が邪魔できない状況をどう作り出すか。荒木さんは「単純な形が変化していくことの楽しさ、一個一個は意味がないものがつながることによって意味が出てくることを子供たちに体験してもらえれば」。遊ぶことによって図形認識能力が自然と身につくことを目指したといいます。このほか会場では分数の仕組みが体感できる作品や昆虫の名前が覚えられる記憶ゲームなど知育への取り組みも一大ジャンルとなっています。
進化するゲムマ
ゲムマは回を重ねるごとに企画も多彩になり、イベントとしての進化を感じます。モグラたたきのモグラになりきって子供たちが穴から飛び出したり引っ込んだりするゲームや、中高年には懐かしいノック式ボールペンを使った「スーパーカー消しゴム落とし」の大会、インターネットテレビ局で人気を集める競技マージャンリーグ「Mリーグ」の体験対戦などが登場。幅広い世代が楽しめる交流の場になりつつあります。【野地哲郎】=次回は11月19日掲載