「絶望しかない」それでも…冤罪の獄舎で刻んだ“オレの記念日”

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千葉刑務所の前を歩く桜井昌司さん=映画「オレの記念日」から ⒸKimoon Film
千葉刑務所の前を歩く桜井昌司さん=映画「オレの記念日」から ⒸKimoon Film

 「幸せだった」。1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件「布川(ふかわ)事件」で再審無罪となった桜井昌司さん(75)は、29年間の獄中生活をそう振り返る。獄中で詩をよみ、出所後は他の冤罪(えんざい)被害者の支援に尽力してきた。公開中のドキュメンタリー映画「オレの記念日」は、そんな桜井さんの半生を追っている。自由を奪われた生活の中で何を得たのか。そしてステージ4のがんで余命宣告も受けた今、何を思うのか。「不運は不幸ではない」と語る桜井さんと、映画を手がけた金聖雄監督(59)が対談した。【司会・関雄輔】

刑務所は「修業の道場」

 ――映画をご覧になっていかがでしたか。

 桜井 正直なところ、何がいいのか分からなかったんです。ありのままの自分がいて、いつも通りにしゃべっていて。それだけなんですよ。

 金 そう言われちゃ困りますよね(笑い)。でも、撮影にあたって僕からはほとんど何も要求していないので、ありのままの桜井さんが映画の中にいると思います。

 ――冒頭の千葉刑務所を再訪する場面が、まるで母校を訪ねるかのような雰囲気で印象に残りました。「楽しさしか思い出さない」と語っていましたね。

 桜井 野球をやったり、サッカーをやったり、仲間と将棋したり……。歩きながら、そういうことを思い出していました。

 金 20年ぶりでしたね。

 桜井 どんなに苦しい時間も、過去になってしまえば、人って懐かしく思えるものなんじゃないかな。

 布川事件 1967年8月に茨城県利根町布川で男性(当時62歳)が殺害され、現金が奪われた。県警は10月、桜井昌司さん(同20歳)と杉山卓男さん(同21歳、2015年死去)を別件容疑で逮捕後、強盗殺人容疑で再逮捕。2人は捜査段階で「自白」を強要され、公判で否認したものの、78年に最高裁で無期懲役が確定。96年に仮釈放。11年に再審で無罪が確定した。

 ――映画の中で、刑務所を「修業の道場」と表現していました。

 桜井 あの月日こそが、自分を自分にしたということは間違いありません。でも最初は違いますよ。地裁、高裁、最高裁と、勝ったらシャバに出られると思っていましたから。無期懲役が確定して、目の前が真っ暗になって、それからですよ、定まったのは。人生は1回、1日は1日、どうせだった…

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