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自衛隊の性暴力問題 あしき組織風土の一掃を

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 個人の人権よりも組織の防衛を優先するような、あしき風土を今度こそ改めなければならない。

 元陸上自衛官の五ノ井里奈さんへの性暴力を巡り、防衛省は訴えを全面的に認めて謝罪した。

 所属していた中隊で、複数の男性隊員から、性的発言や接触などの悪質なハラスメントを受けていた。退職を余儀なくされた五ノ井さんは、インターネットなどを通じて被害を告発した。

 性暴力は絶対に許されない。関わった人物を厳正に処分するのは当然だ。

 さらに問題なのは、自衛隊内で組織的な隠蔽(いんぺい)が行われた疑いが濃くなっていることだ。

 五ノ井さんは加害者から口止めされていた。被害を訴えたにもかかわらず、中隊長は上司への報告と調査を怠った。退職時、自衛隊は「一切の異議を申し立てない」とする同意書に署名を求めた。

 加害者は過去の内部調査では性暴力を否定していたが、その後、一転して認めた。当初、虚偽の説明をした理由について、「他の隊員をかばおうとした」などと話したという。

 五ノ井さんは自衛官としての夢を絶たれたうえ、事実を明らかにするために、実名での告発に踏み切らざるを得なかった。

 防衛省はこの問題を受け、全自衛隊員を対象に、さまざまなハラスメントの根絶に向けて特別防衛監察を実施している。

 今月には、弁護士や産業医らによる有識者会議も設置した。従来のハラスメント防止策が適切だったかを含めて検証するという。

 自衛隊は、いじめやパワハラなどが発覚する度に再発防止を約束してきたが、状況が改善しているとは言えない。ハラスメントに関する隊員からの相談は、昨年度だけで約2300件に上る。

 背景には、外部の目が届きにくい部隊の環境や、強い同調圧力などがあると指摘されている。再発防止策を徹底するだけでなく、こうした体質を一掃することが不可欠だ。

 日本の安全保障環境が激変し、災害も頻発する中、自衛隊の果たす役割はより重要になっている。人権感覚を疑われたままでは、国民の期待と信頼に応えることはできない。

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