重度心臓病の1歳女児 「その日」に向けて命をつなぐ日々/下

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生後間もなくの幸音ちゃん。心雑音は指摘されたものの元気で、父の聡志さんと妻は「このまま健やかに成長してほしい」と願っていた=家族提供
生後間もなくの幸音ちゃん。心雑音は指摘されたものの元気で、父の聡志さんと妻は「このまま健やかに成長してほしい」と願っていた=家族提供

 1歳10カ月の女の子、幸音(ゆきね)ちゃんは、生後間もなく重度の心臓病と診断された。心臓移植以外に愛娘の生きる道がないことを知った父、聡志さん(33)と公務員の妻(33)は、移植まで待機する決断を下す。大規模な病院へ転院した幸音ちゃんの容体は厳しく、いつ訪れるか分からない“その日”まで命をつなぐ小児用補助人工心臓「エクスコア」を装着することとなった。【倉岡一樹】=連載の上はこちら

おなかから伸びる2本の太いチューブ

 移植待機が決まると、めまぐるしく事が進んだ。今年3月4日に日本臓器移植ネットワークへ心臓移植の待機登録を申請し(登録完了は15日)、5日にエクスコアの導入手術があった。

 手術は5~6時間という説明だったが、約8時間かかった。術後に執刀医が説明した。「思ったより状態が厳しく、時間がかかった」。術後、集中治療室(ICU)へ戻り、聡志さんは眠っていた幸音ちゃんの姿に息をのんだ。太く透明なチューブ(約2メートル)が2本、娘のおなかから伸び、血液が循環する様子も見えた。「生後2カ月なのにこんな痛々しい姿になって……。でもこれで移植を待てる」

 心中に複雑な感情がわき起こり、退路を断たれた思いがした。

 「エクスコアの導入直後は容体が安定せず、予断を許さない」と主治医から聞かされていた。その言葉通りだった。病院から電車で帰っていた時に聡志さんのスマートフォンが鳴った。

 「エクスコアが動いているのに容体が安定しない。原因が分からない。危ない可能性があるから家族と一緒に病院へ戻ってきてほしい」。医師の説明に、聡志さんは最悪の事態を覚悟した。一度自宅に戻って家族3人、車で病院へと向かった。

 「何とか乗り越えて。生きて……」。悲痛な祈りとともにハンドルを握る聡志さんのスマホが鳴る。再び病院からだ。冷や汗が首筋を伝う。

 「胸水のたまりすぎが原因と分かり、抜くと状態が安定した」。緊急手術も終わったと聞き、深いため息をついた。翌6日にも、再びピンチが訪れ、病院に向かった妻から聡志さんに連絡が届いた。

 「右心室と左心室のバランスが悪く、血の巡りがよくないから手術するみたい。弁が動いていないからエクスコアをもう一つ着ける可能性があるって」

 丸一日かかる大手術だったが、幸音ちゃんは小さな体で踏ん張り、医師の懸命な治療のかいもあって命の危機を乗り越えた。3度目の容体急変に備えて妻が病院近くのホテルに泊まり込んだが、幸音ちゃんは山を越え、その後安定した。

先の見えない移植待機生活

 3月24日、幸音ちゃんはICUから一般病棟へと移った。そのタイミングで夫婦の付き添いが始まり、交互に2週間ずつ病室に泊まり込んだ。妻は出産前にあらかじめ産休と育休を取り、聡志さんも2カ月程度育休を取得した。お互い育休期間を延ばして付き添うことにした。

 当面これでしのげるが、2人とも「育休は出産から3年間」と決められている。しかも育休手当が出るのは出産から2年間までだ。移植待機はいつまで続くか分からず、2年を超えた後のことなど考える余裕がなかった。妻が付き添う時は、聡志さんが自宅で長女と見送った。

 「パパとママがそろうことはないんだよね」。取り乱さず、落ち着いて…

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