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裁判所の結論は、社会の規範になり得る。その記録は歴史的資料であるとの認識が欠けていたと言わざるを得ない。
重大な少年事件の記録が、各地の家裁で廃棄されていた。
1997年の神戸連続児童殺傷事件をはじめ、2000年の愛知夫婦殺傷事件、04年の長崎・佐世保小6女児殺害事件などの記録が残されていなかった。
最高裁の規定によると、少年が起こした事件の記録は、その少年が26歳になるまで保存する。
史料や参考資料になる記録は「特別保存」の手続きをして、その後も残さなければならない。
具体的には92年の通達で「全国的に社会の耳目を集めた事件」「世相を反映した史料的価値の高い事件」などと示されている。
しかし、特別保存になった記録は全国で15件にとどまる。廃棄が明らかになった事件も該当していたはずだ。通達に沿わない運用がなされていた可能性があり、検証が欠かせない。
少年事件の記録は他の裁判記録よりもプライバシー性が高い。更生に配慮する必要があるからだ。
裁判所が許可すれば閲覧できるが、捜査に不可欠な場合などに限られる。被害者側が閲覧できるのも処分確定から3年間である。
とはいえ、いったん廃棄してしまえば、将来、新たな閲覧の手立てが設けられても対応できない。
記録廃棄の背景には、構造的な問題がある。
裁判所で扱われる案件は私的なトラブルも多く、件数も膨大だ。
記録を保存するかどうかの判断は、それぞれの裁判所に任されている。最高裁がチェックする仕組みも整えられていない。
終わった裁判の記録保存について、関係者の意識は低い。だが、結論を導いた主張や証拠なども重要な意味を持つ。組織的に管理する制度を設ける必要がある。
最高裁は2年前、特別保存の対象に関して「主要日刊紙2紙以上に掲載された事件」などと、より詳しい考え方を示した。今回の問題を受け、記録保存のあり方について有識者の意見を聞く。
司法分野でもデジタル化が進められつつあり、今後は保存が容易になる。記録の活用方法も含め、抜本的な見直しを図るべきだ。