信州・黒姫 森づくりの「達人」と過ごした豊かな日々
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信越県境に連なる妙高・黒姫・戸隠・飯縄の頂が、うっすらと雪の冠をかぶった10月下旬。長野県信濃町にある「アファンの森」では、秋の協奏曲が奏でられていた。
荷を解いた森の中の山小屋では、ドングリが屋根をたたく音で目覚めた。ストーブのまきはパチパチと、森で採れたナラタケやナメコの鍋はコトコトと歌う。錦を織るごとく彩られた樹間の小道を歩くと、落ち葉がサクサクと調べを刻み、カツラの枯れ葉が甘い香りで包んでくれた。
森は今年も実りをもたらし、ナラやクリの木の下にはイノシシの食べかすと足跡が散在していた。スギ林では、リスが木肌をはいで口にくわえ、樹上の枝の間にこしらえた球形の巣にせっせと運び込んでいた。そして夕暮れには、発情期を迎えた雄鹿の物悲しい鳴き声が流れていた。
◇
人や獣の行く手を遮るようにやぶが生い茂り、年中薄暗いことから「幽霊山」と呼ばれていた荒れ地を、作家のC・W・ニコルさん(享年79)が購入し、「アファンの森」と名付けて、森づくりを始めたのは1986年。35年の歳月を経て、1540種の動植物がすむ森になった。
その指南役となったのが、山仕事の達人の松木信義さん(86)だ…
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