詩人、竹中郁をめぐる物語/上 小磯良平との奇跡の友情=神戸市立小磯記念美術館学芸員・多田羅珠希
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「いい加減にしろとどなるわたくしに、しろうとは黙れという。そこでわたくしが一発。もちろん、打ち返してくる」。数年前、美術館の収蔵庫で作業をしていた時のことである。開館時から在籍する先輩学芸員が竹中郁(1904~82年)の上記の言葉を口にした。私が美術館に勤務した最初の年であったから、こんなエピソードがあるよと教えてくれたのである。神戸の人のイントネーションで朗々と読み上げられた言葉を聞いて、竹中の文章はこう読むべきなのだ、と四国出身の私は感動してしまった。
冒頭の言葉は、竹中と小磯の間に勃発した、殴り合いのケンカを回想したものである。モダニズムの詩人・竹中郁と洋画家・小磯良平、まだ20代の時の話である。場所はマドリードのプラド美術館。立会人は水彩画家の中西利雄。昼時になっても憧れの名画の前から動こうとせず、やっと帰ろうとしたかと思えば今度は絵はがきを一枚一枚丹念に見比べるマイペースな小磯に、とうとう竹中の堪忍袋の緒が切れたのである。お腹(なか)が空…
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