専門里親わずか5% 複雑な背景持つ子育てる制度の課題とやりがい

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専門里親の苦労ややりがいを語るリエさん(仮名)=兵庫県内で2022年3月25日午後4時5分、中田敦子撮影 拡大
専門里親の苦労ややりがいを語るリエさん(仮名)=兵庫県内で2022年3月25日午後4時5分、中田敦子撮影

 「専門里親」をご存じだろうか。親元で暮らせない子どもを家庭的な環境で育てる里親の中でも、虐待によるトラウマや非行傾向、障害のある子どもを養育する特別な里親で、創設から今年で20年となった。里親委託される子の4人に1人が何かしらの障害を抱えるとされるが、里親全体の5%にとどまっている。やりがいと育成の課題を探った。

心に傷持つ子育てる葛藤 成長に喜びも

 兵庫県内に住む69歳のリエさん(仮名)は短期間での養育も含めると、30年間で20人以上の里子を預かったベテランだ。不妊治療を約10年間続けたが授からず、養育里親になった。17年間経験を積み、友人の後を追って、2009年に専門里親になった。

 心の傷を負った子どもの受け入れは悩みも多く、里子とのトラブルから離婚危機に陥ったこともある。それでも、つらい過去を乗り越えようとする里子の姿に「苦しんでいるのは自分だけじゃない」と言い聞かせてきた。

 現在は、実父から虐待を受けた高校生のユウトさんと、学習障害と愛着障害のある小学生のミカさん(ともに仮名)を育てる。

 ユウトさんは幼い頃、実父にライターの火で脅され、暗い部屋で尻をたたかれた経験がある。小学生の時にリエさんの財布からお金を盗んだり、おもちゃを投げて壊したりした。友人とけんかも繰り返した。困り果てたが、リエさんはやがて「強くなって、虐待された父親を見返したい思いからでは」と気付いた。厳しく叱っても、最後は「大丈夫、あんたはうちの子やから」と声をかけ続けた。

 柔道を始めると次第に落ち着きを見せ、小さな気遣いができるようになったユウトさん。うたた寝をしていると、そっと枕を持ってきてくれる。誕生日には「いつも迷惑かけてごめんね。お母さんに出会うために生まれてきたんや」と感謝した。成長を感じ、自らも元気づけられてきた。

 里子が成長する喜びとともに、周囲の支えで続けられた。県のこども家庭センター(児童相談所)の里親サロンや里子が通う学校の教員に相談。「同じ悩みを共有できる里親や地域の人々を頼り、孤立しないことが重要だ」と話す。

増えない専門里親 認定や相談体制に壁

専門里親登録数 拡大
専門里親登録数

 厚生労働省によると、18年に全国で里親委託された子ども5382人のうち、知的障害や発達障害の一つの自閉症スペクトラムなど心身に障害を抱えるのは24・9%で15年間で倍増している。虐待を受けた子は愛着形成に問題を抱えやすいともされる。

 明星大の川松亮教授(児童福祉学)によると、障害や虐待などにより人との距離感が不安定になる子どもは、コミュニケーションがうまくとれず、衝動的に興奮して暴言を吐くこともある。里親は、日常生活のさまざまな場面でどう対応していいか分からなくなることがあるが、相談できる体制は地域によって格差があり、十分に確立されていないという。

 専門里親は養育里親を3年以上経験し、専門の研修などを経て認定された後も研修を続けるなどハードルは高い。こうした背景もあり、認定されたのは21年3月時点で715世帯。里親全体(1万4401世帯)の5%にとどまる。

 里親探しに取り組む家庭養護促進協会神戸事務所の橋本明事務局長(78)は「さまざまな課題を抱えた子どもを長期的に養育することで、本人だけでなくその家族も感情を揺さぶられ、手いっぱいとなるケースもある」と、担い手が広がらない理由を分析。川松教授は「児童相談所や里親の支援機関が連携し、委託後も手厚くきめ細やかなサポートをすることが必要だ」と指摘する。【中田敦子】

里親制度

 児童福祉法に基づき、虐待や経済的事情などで親元で暮らせない原則18歳未満の子どもを、家庭同様の環境で育てる制度。里親になるには、研修などを受けて都道府県などの認定・登録が必要。「専門里親」は虐待されて傷ついた子どもの心の傷の回復や自立支援を目的として2002年に新設され、08年の法改正で障害のある子どもも委託対象となった。他に、一定期間預ける「養育里親」▽法的な親子関係を結ぶ前提の「養子縁組里親」▽祖父母などの親族を認定する「親族里親」――がある。

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