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「いいね!」でいいの? 「リアル」巡る哲学者、鷲田清一さんの危惧

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「ことばの現在」と題して講演する哲学者の鷲田清一さん=大阪市北区で2022年11月1日、望月亮一撮影
「ことばの現在」と題して講演する哲学者の鷲田清一さん=大阪市北区で2022年11月1日、望月亮一撮影

 SNS(ネット交流サービス)にあふれる攻撃的なメッセージ。新型コロナウイルス禍はコミュニケーションのオンライン化をますます加速させ、ネットの海には差別や中傷の言葉が垂れ流されている。哲学者の鷲田清一さん(73)は「この10年近く、特にコロナ禍になって余計、言葉が両極化しているんじゃないか」と印象を口にし、「私たちのリアルの感覚がむしばまれている」ことが事の本質にはあると指摘する。一体どういうことか。鷲田さんの語りに耳を傾けた。

 11月上旬の大阪市内。報道関係者や研究者向けに開かれた「サントリー文化財団フォーラム」で、鷲田さんは「ことばの現在」と題して講演した。そこでまず触れたテーマが「言葉の両極化」、すなわち「荒(すさ)み」と「萎縮」だ。「一方では人に放(はな)ってはいけないような言葉が平然と口に出されるようになり、もう一方では何を言っても仕方がないと言葉がのみ込まれるような状況がある。そういう両極分解が今の言葉には起きている気がします」

 そもそも言葉は「切るもの」と説明する。内/外、理性/感覚のように「連続的なものに言葉は切れ目を入れる」。同時に人間は、言葉でいつも完璧には分けられない煮え切れなさを抱えているはずが、今や「切る事へのためらいが急速に発話者からなくなっている」と懸念する。例えばヘイトスピーチのように、「切る」ことを目的にした言葉はやかましく、同じ内容を何度も繰り返す。そうなれば言葉はキャッチボールのように交わされるものではなく、一方的に投げ捨てられる。

知的な肺活量を持つ

 講演の冒頭、鷲田さんはこんな文言を紹介した。<「いいね!」で、いいのか>。これは自身が教員として最後の授業を行った大谷大(京都市)が発信するメッセージだ。その言葉はこう続く。<Real(リアル)はもっと複雑かもしれない>

 誰かが発した言葉の向こうには、「いいね!」とすぐさま反応するだけでは片付けられない複雑な現実があるかもしれない。鷲田さんは言う。「答えを急がず、ああでもないこうでもないと考える。そうした複雑さに耐える力が必要ではないでしょうか」。言葉が一方的に吐き出されるような状況にあって、受け取る側は「ちょうどプールの中、潜水で向こう側まで泳ぎ続けるような知的な肺活量を持つことでしか、そういう現実に抵抗できないだろうと思います」。

 こうした言葉の惨状の一番奥にある問題と鷲田さんが考えるのが、コロナ禍で崩れつつある「リアルの地盤」だ。…

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