連載

「普通」をほどく

常識や当たり前とされてきた価値観の先を見つめ、新しい生き方を模索する人たちや現場に迫ります。

連載一覧

「普通」をほどく

「女芸人」ではなく「芸人」 Dr.ハインリッヒの革命

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
漫才コンビ「Dr.ハインリッヒ」の幸さん(左)と彩さん=大阪市中央区で2022年10月31日、大西岳彦撮影
漫才コンビ「Dr.ハインリッヒ」の幸さん(左)と彩さん=大阪市中央区で2022年10月31日、大西岳彦撮影

 「芸人」と聞いて多くの人の頭に浮かぶのは、男性だろう。「漫才師」と聞けば、男性同士のコンビ。今日のお笑い界ではまだまだそれが「普通」だ。その意味で、いま注目を集めるDr.ハインリッヒは全然普通じゃない。

 幸(みゆき)と彩(あや)は女性で双子。当然、「女芸人」「双子コンビ」と紹介される。ところが、漫才用のサンパチマイクの前に立った2人は、女性であることも双子であることもネタにしない。2人にとってはそちらが「普通」。マイクの前では、普通のことではなく、面白いことをしゃべりたい。

 2人の漫才は、例えばこんなふうに始まる。タイトルは「みょうが」。

 幸 わたくしこないだ道を歩いてたんですよ。

 彩 自分こないだ道を歩いてたんかいな。ええやん。

 幸 ええやろ。道歩いてたらね、ミョウガみたいな犬見たんですよ。

 彩 ミョウガみたいな犬見たんや。何それ?

 幸 色が全体的にパープルで、しっぽの方はグリーンやねん。パープル、グリーンっていうグラデーションやねん。

 彩 グラデーションな。

 幸 ミョウガみたいやなって思って見てたんや。ほんで犬と飼い主の人歩いてくるやん。わたくしも歩いてくるやん。で、近くでよくよく見たら、これミョウガみたいな犬ちゃうかってん。

 彩 これ何やったん。

 幸 これミョウガやってん。

 他にも「トンネルを抜けると」「風、新約聖書」「水瓶(みずがめ)の女神様」など。タイトルからして独自の世界観を放つ漫才は、文学作品を思わせる言葉選びと突拍子もない展開で、やみつきになる面白さがある。今年は2月に大阪・なんばグランド花月、10月には東京・浅草公会堂で大規模ライブを成功させた。

テレビの壁、劇場の壁

 結成は2005年。ダウンタウンが好きで▽子どもの頃から芸人が夢で▽吉本興業のお笑い養成所に入り▽「自分たちが一番面白い」と信じて疑わないとがった20代――だった。この世代で芸人を目指した若者たちの、ごくごく一般的な来歴。だが、2人は女性だった。

 まずぶつかったのはテレビの壁。下ネタに過剰に反応してみせることを求められ、収録前に提出するアンケートでは「抱かれたい男芸人は?」と聞かれた。

 「これは必須科目なんか?というぐらい、絶対聞かれましたね。…

この記事は有料記事です。

残り2818文字(全文3746文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る
この記事の筆者
すべて見る

ニュース特集