連載
現代作家として国際的に高い評価を受けている村上春樹さん。小説の執筆だけでなく、翻訳に、エッセーに、ラジオDJにと幅広く活躍する村上さんについて、最新の話題を紹介します。
村上文学に影響を与えた映画の数々 「光景を頭の中で映写する」
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映画監督の大森一樹さんが2022年11月12日、急性骨髄性白血病のため亡くなった。70歳だった。男性の平均寿命が80歳を超える時代、また1952年生まれの大森さんが団塊世代のすぐ下の、いわゆる「ポスト団塊」世代に当たるということからも、早過ぎる死という思いが強い。
大森さんは、何といっても村上春樹さんのデビュー作「風の歌を聴け」を81年に映画化した人である。これが村上作品の最初の映画化だった。しかも村上さんとは兵庫県芦屋市の同じ中学校の3年後輩で、そのことが書かれた初期エッセーなども記憶に残っていた。
早大演劇博物館で「映画の旅」展
この10月から、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)に隣接する坪内博士記念演劇博物館(演博)では秋季企画展「村上春樹 映画の旅」が開かれている(23年1月22日まで。12月7、26日~1月9、18日は休館。無料)。実は、筆者が同展を訪れたのは11月11日だったが、そこには映画「風の歌を聴け」のポスターも展示されていた。
同展は「映画館の記憶」「映画との旅」「小説のなかの映画」「アメリカ文学と映画」「映像化される村上ワールド」の5章形式で、演博2階の二つの展示室が会場になっている。この作家と映画との関わりが、音楽と並んで深いものであることはよく知られ、盛んに論じられてきた。村上さんの卒業論文(早大第1文学部)はアメリカ映画が主題であり、作品にはしばしば映画や俳優の名前が出てくる。
初めの展示室に入ると、作家本人が寄せた「映画館の暗がりの中で」という文章が掲げられていた。「映画館で観(み)るしか映画を観る手立てはない」自らの「若い時代」の映画体験を振り返りつつ、「僕は映画館の暗がりの中で多くのものごとを学んだし…
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