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「ボッチャ、やってみませんか」 地域をつなぐスポーツの絆

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そろいの緑色のTシャツ姿でボッチャの先生役を務める世田谷スポ・レクネットのメンバー=東京都世田谷区の尾山台地域体育館で2022年10月2日午前9時31分、藤倉聡子撮影 拡大
そろいの緑色のTシャツ姿でボッチャの先生役を務める世田谷スポ・レクネットのメンバー=東京都世田谷区の尾山台地域体育館で2022年10月2日午前9時31分、藤倉聡子撮影

 東京都世田谷区の尾山台地域体育館で10月にあった「体育館まつり」。プログラムの一つとして行われた「ボッチャ体験会」には、幼児から高齢者まで50人余りが参加した。まつりに訪れた人々に「ボッチャ、やってみませんか」と声を掛け、先生役を務めたのがNPO法人「世田谷スポ・レクネット」のメンバーたちだ。

 世田谷区東南部、尾山台がある等々力地区に隣接する深沢地区を拠点に、子どもから高齢者まで約70人の会員を擁する。始まりは2012~14年度に文部科学省が実施した、障害のある人もない人も一緒に楽しめる「スポーツ・レクリエーション活動」の推進事業だった。

 地域での活動を推進する仕組みを実践研究することを重要課題とした事業で、全国21カ所でモデルとなる活動が実施された。事業のために設置された「協力者会議」の座長を務めたのが、野村一路・日本体育大教授(当時)。日体大キャンパスのある深沢地区も実施拠点の一つとなり、野村教授の生涯スポーツ学研究室が中心となって活動を展開した。

 その一環として13年9月、ハンドサイクル(手こぎ自転車)を楽しむイベントに、会社役員で後にNPO法人理事長となる斎佐一(いつきさいち)さん(66)が参加した。当時16歳で体が不自由な長男の「付き添いのつもりだった」という斎さん。「どのように楽しみたいか。そのために、どんな手助けが必要か。保護者も、ぐいぐい引き込まれた。参加者は楽しませてもらうのではなく、主体的に『楽しい』を生み出すというのが新鮮で、衝撃を受けた」と振り返る。

初めてボッチャを体験する参加者にプレーの基本を説明する世田谷スポ・レクネットのメンバー=東京都世田谷区の尾山台地域体育館で2022年10月2日午前9時59分、藤倉聡子撮影 拡大
初めてボッチャを体験する参加者にプレーの基本を説明する世田谷スポ・レクネットのメンバー=東京都世田谷区の尾山台地域体育館で2022年10月2日午前9時59分、藤倉聡子撮影

 参加者とスタッフが一緒になって何をどう楽しむか考え、スポーツをはじめとしたレクリエーションのプログラムを創造していく。そんな活動が仲間を増やし、地域の人々をつなぐツールとなり得ることを感じ始めた頃、15年3月で文科省の事業は終了した。「『これで終わるのは、寂しい』と考えましてね」と斎さん。事業で出会った仲間が集う任意団体として15年4月、世田谷スポ・レクネットを設立。21年3月にNPO法人格を取得した。

 これまで、車いすテニスやゴム風船を使う風船バレー、卓球台で行う卓球バレーなど、さまざまなスポーツの勉強会や体験会を行い、会員同士でスポーツを楽しむとともに指導のノウハウを学んできた。特にボッチャは新型コロナウイルス感染拡大前は月1回のペースで交流会を実施し、18年からは学校や会社のチームも参加する「せたスポ杯」を開催。22年4月からは、尾山台地域体育館運営協議会が月2回のペースで開く「ボッチャ教室」でも、会員が先生役を務めている。

 障害の有無や年齢、性別に関係なく楽しめるスポーツに力を入れているが、「関係なく」は大前提。その上で、「フォーカスしているのは、『地域』なんです」。こう説明するのは、NPO副理事長の今野浩太郎さん(30)だ。

 今野さんは日体大生涯スポーツ学研究室で学び、日体大助手や東京都オリンピック・パラリンピック準備局職員としてスポーツ指導やスポーツによる地域振興に携わった。現在は茨城県を中心に児童デイサービスや就労支援事業を展開する会社で働きながら、世田谷スポ・レクネットの活動を支えている。

 世田谷スポ・レクネットのイベントでは、しばしばスポーツの公式ルールが崩され、体の状態や熟練度の差を超えて、一緒に楽しむための方法が参加者らによって創造される。コートの広さを変えたり、本来のルールでは立って行うスポーツに椅子を取り入れたり--。創意工夫によってともにスポーツをすることで、一人一人が「楽しみたい」という欲求を満たし、出会いを喜び、お互いの理解を深めることが一番の目的だからだ。

「体育館まつり」に参加した斎佐一さん(前列右端)、今野浩太郎さん(同右から2人目)ら世田谷スポ・レクネットのメンバー=東京都世田谷区の尾山台地域体育館で2022年10月2日午前10時20分、藤倉聡子撮影 拡大
「体育館まつり」に参加した斎佐一さん(前列右端)、今野浩太郎さん(同右から2人目)ら世田谷スポ・レクネットのメンバー=東京都世田谷区の尾山台地域体育館で2022年10月2日午前10時20分、藤倉聡子撮影

 誰もが参加できるスポーツ・レクリエーションによって、孤立しがちな人と人を結び交流を生み出す。「スポ・レクネットが目指すのは、そんな地域の社会的資源になること」と今野さんは力を込める。イベントを通して地元自治会や社会福祉協議会との関係も強まった。地域の絆を生み出すツールの一つとして、世田谷スポ・レクネットの存在感は高まっている。

 一方で、「地域」に焦点を当てるなら、「活動の範囲は、お互いの顔を覚えられる中学校区ぐらいが良いと考えている」と今野さんは指摘する。文科省事業の21の実践拠点のうち、今日まで継続している数少ない成功例であるにもかかわらず、活動の軸足は名前の「世田谷」より小さな「深沢地区」に置かれ続けている。

 「スポーツ・レクリエーションに取り組む団体が、世田谷区にいっぱいできれば、という希望も込めたネーミングだったんですよ」と今野さんが笑う。スポーツ・レクリエーションが全国のあちこちで地域住民をつなぐツールとなり、団体同士が緩やかなネットワークでつながれたら――。小さな地域の活動に、大きな夢を描いている。【藤倉聡子】

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