SNSに押されるフィリピンの歴史教育 コロナ禍が助長

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大統領就任式に出席した(ボンボン)マルコス大統領(右)と母親でマルコス元大統領夫人のイメルダ・マルコス氏=マニラで2022年6月30日、ロイター
大統領就任式に出席した(ボンボン)マルコス大統領(右)と母親でマルコス元大統領夫人のイメルダ・マルコス氏=マニラで2022年6月30日、ロイター

 長期独裁政権を敷いたマルコス元大統領時代を美化する見方がフィリピンのソーシャルメディアで広がっている。その背景の一つとして指摘されるのが学校教育だ。首都マニラにある私立高校の社会科教諭、サントス・フランツさんは「歴史を学ぶ場として、SNSが授業に取って代わろうとしている」と懸念する。加えて、長引く新型コロナウイルス禍も思わぬ形で事態を助長している。

減る授業時間

 フィリピンでは2012年から始まった教育改革で、フィリピン史の授業が日本の小学5、6年に当たる2年間のみとなった。16世紀から年代順に教える決まりで、マルコス政権の戒厳令発令(1972年)までカバーされないケースもあるという。中学校にあたる課程では東南アジア史の一部としてフィリピン史を学ぶにとどまる。

 改革から10年の節目にあたる今年は見直しが行われ、数年後には中学1年で歴史の授業が増えるとみられる。しかしフランツさんは「小中学校レベルでは、歴史的事実を暗記するだけで終わる。歴史を深く掘り下げたり、総体として理解したりする機会がない」と指摘。「すでにその隙間(すきま)に不正確な情報を伝えるSNSが入り込んでいる」とため息をついた。

批判的な記述少なく

 教科書の内容にも疑問が呈されている。国内で多く使われる小学校の歴史教科書7冊を比較した比ファー・イースタン大公共政策センターの研究によると、戒厳令発令の背景について7冊すべてが「共産主義の脅威」「ミンダナオ島での暴動」といったマルコス氏側の主張を記している。戒厳令について専門家の間では、当時の憲法で最長2期8年と定められた任期切れが迫る中、マルコス氏が大統領の地位を維持しようと発令したとの見解が一般的だが、そうした見方を掲載したのは2冊のみ。政権内の汚職への言及も限定的だった。

 また、すべての教科書が戒厳令下でマルコス氏が目指した「新しい社会」に向けた「平和と秩序」「経済改革」などの目標に焦点を当てている。しかしその裏でメディア統制、人権侵害などにつながったと批判的に記述したのは3冊。こうした弊害に触れていないものもあった。

 研究に参加したフィリピン大歴史学部のカービー・アルバレズ准教授は「学校がどのような教科書を選ぶかで、この時代に誤った印象を持ちかねない」と指摘する。「あらゆる角度からの情報が記載されなければ、批判的思考が育たない。それがSNS上のフェイクニュースを信じ込みやすい状況にもつながっている」と説明した。

「詳しく教える必要あるのか」

 一方、コロナ禍を通じて見えた歴史教育の課題もあった。私立セント・スコラスティカズ大初等部の教師、ロサナ・レオネスさん(53)によると、コロナ禍で増えたオンライン授業では、隣で聞いていた両親が、戒厳令時代について「詳しく教える必要があるのか」と口を挟んでくることがあった。…

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