農薬汚染が招いた極右大勝 カリブ海仏領、今も巣くう植民地主義
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聞いたこともない言葉が旅の始まりだった。「クロルデコンのせいだよ」
カリブ海に浮かぶフランス領の島、マルティニク。今年4月に行われた仏大統領選の決選投票で、極右「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏が、この島で「勝利」を収めたことは衝撃だった。その理由を、島出身でパリに住むアデイ・ルネコライユさん(35)に尋ねると、耳慣れない、このキーワードが飛び出したのだった。
フランス全体でマクロン大統領はほぼ6割の得票率で再選した。だがマルティニクではルペン氏が6割の得票率を占め、マクロン氏が「敗北」するという本土とは逆の結果になった。
沖縄本島とほぼ同じ面積のマルティニクの世界的な知名度は低くない。その理由は、エメ・セゼールやフランツ・ファノンといった植民地主義や人種差別との闘いの「発火点」ともなった作品を残した文豪たちを輩出したからだ。20世紀後半の植民地独立の機運を育んだ島とも言える。その島で今、人種差別的とも批判される極右候補が「大勝」するとは――。
選挙結果に影響を及ぼしたというクロルデコンは1972~93年、島の基幹産業であるバナナを枯らす害虫ゾウムシの駆除剤として使われた有機塩素系の農薬だ。カリブ海に浮かぶもう一つの仏領、グアドループでも使われていた。毒性が強く、有害化学物質を規制する国際条約「ストックホルム条約」では製造も使用も禁止されている。
2018年に発表された仏政府の調査では、マルティニクとグアドループで人口の9割が血液中にクロルデコンを取り込んでいた。この調査結果をきっかけに、島の元労働者から国に補償を求める訴えが相次いだ。「こういった経緯が極右の支持につながった」とルネコライユさんは指摘する。真相を探るため、私はマルティニクへと飛んだ。
クロルデコンはどのように使われたのだろう。島の中部にあるバナナの畑が広がる丘の上で元農園労働者たちから話を聞いた。マリローズ・ミレディンさん(80)は記憶をたどった。「粒状で『ケポン』と呼んでいた。袋に入っていて、…
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