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防衛力強化の増税案 説明なく痛み強いるのか

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 防衛力強化を理由に負担増を求めるのであれば、国民の安全にどうつながるのか説明を尽くし、理解を得なければならない。

 政府の有識者会議が報告書をまとめ、防衛費の増額に向けて「幅広い税目での国民負担が必要」と増税を提案した。会議はわずか4回しか開かれず、急ごしらえの感が否めない。

 日本を取り巻く安全保障環境は激変している。どのような脅威があるのか、憲法の枠内で整備すべき能力と装備は何か。多くの論点で議論が深まった形跡は乏しい。

 政府・与党内では、防衛費など関連予算を国内総生産(GDP)比2%へ倍増させるという「目標」が独り歩きしている。

 国家安全保障戦略など、安保関連3文書の改定が来月に迫っている。ところがこの期に及んでも、岸田文雄首相は「防衛力の内容、予算、財源を一体的に検討する」と繰り返すばかりである。

 本来であれば、戦略の全体像を先に示し、必要な費用をどう見積もり、どのような形で賄うべきなのかを検討するのが筋だ。

 まずは防衛費の枠内で、目的と費用対効果を精査し、お金を優先順位の低いものから高いものへ回すことが求められる。他の予算の削減や見直しも欠かせない。

 日本の財政は国債依存度を高め続け、長期債務残高は1000兆円を超えている。さらに巨額の国債を発行し、将来世代にツケを回すのは無責任だ。

 そもそも防衛費は一時的な支出にとどまらないため、借金頼みではなく、恒久的な財源を確保する必要がある。

 自民、公明両党の税制調査会が協議を始めており、法人税、所得税の増税などが浮上している。

 しかし、新型コロナウイルス禍で長引く景気低迷に加え、円安や物価高も国民・企業を直撃している。増税という「痛み」が容易に受け入れられる環境にはない。

 国民の安全と暮らしに直結する問題にもかかわらず、責任者の首相は、そうした点について明確な説明をしてこなかった。

 防衛政策の大転換につながる重要な局面である。国民負担も含めて国会で正面から議論すべきだ。駆け込みで決めるようなことがあってはならない。

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