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ふるさとでの暮らしを奪われた人々の痛みに向き合い、救済を拡大する仕組みを早急に整えなければならない。
東京電力福島第1原発事故の被害に対し、国が定めた賠償基準が見直されることになった。
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が今月、対象などを広げる方針を決めた。
見直しは2013年以来となる。きっかけは今年3月、被害者が起こした集団訴訟7件で、いずれも基準を上回る賠償額が確定したことだ。
基準は交通事故の自賠責保険を参考に決められており、被害の実態に見合っていないとの声が強かった。不十分であることを司法も認めた。
見直し作業の土台となるのは、学者や弁護士らが司法判断を分析した報告書だ。
主なテーマは、住み慣れた故郷が失われ、あるいは様変わりしたことへの慰謝料である。
避難や移住を余儀なくされた人は生活の基盤をなくし、地域のつながりも失った。
放射線量が低下して故郷に戻れたとしても、一変した環境を受け入れるしかない。
現在の基準では、帰還困難区域の人に700万円の慰謝料が認められるにとどまる。対象を他の避難指示区域などにも拡大し、金額も再考すべきだ。
報告書は、情報が不足する中、着の身着のまま避難を強いられた当時の過酷な状況が、基準には十分に考慮されていないと指摘している。
自主的に避難した人に関しても対応を求めている。
基準見直しに当たっては、被害者の意見や自治体の要望も聞きながら、実態に即した償いのあり方を検討する必要がある。
東電の姿勢も厳しく問われている。これまで、基準を上回る賠償は認められないと、かたくなに主張してきた。
基準は、あくまで一般的な目安である。被害者の個々の事情を踏まえ、誠実に対応しなければならない。
事故から11年8カ月が過ぎた今も、多くの人々が避難先で生活している。誠意ある償いは、国と東電に課せられた責務だ。