連載

社説

社説は日々、論説委員が議論を交わして練り上げます。出来事のふり返りにも活用してください。

連載一覧

社説

原発事故の賠償基準 故郷奪われた痛み反映を

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

 ふるさとでの暮らしを奪われた人々の痛みに向き合い、救済を拡大する仕組みを早急に整えなければならない。

 東京電力福島第1原発事故の被害に対し、国が定めた賠償基準が見直されることになった。

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が今月、対象などを広げる方針を決めた。

 見直しは2013年以来となる。きっかけは今年3月、被害者が起こした集団訴訟7件で、いずれも基準を上回る賠償額が確定したことだ。

 基準は交通事故の自賠責保険を参考に決められており、被害の実態に見合っていないとの声が強かった。不十分であることを司法も認めた。

 見直し作業の土台となるのは、学者や弁護士らが司法判断を分析した報告書だ。

 主なテーマは、住み慣れた故郷が失われ、あるいは様変わりしたことへの慰謝料である。

 避難や移住を余儀なくされた人は生活の基盤をなくし、地域のつながりも失った。

 放射線量が低下して故郷に戻れたとしても、一変した環境を受け入れるしかない。

 現在の基準では、帰還困難区域の人に700万円の慰謝料が認められるにとどまる。対象を他の避難指示区域などにも拡大し、金額も再考すべきだ。

 報告書は、情報が不足する中、着の身着のまま避難を強いられた当時の過酷な状況が、基準には十分に考慮されていないと指摘している。

 自主的に避難した人に関しても対応を求めている。

 基準見直しに当たっては、被害者の意見や自治体の要望も聞きながら、実態に即した償いのあり方を検討する必要がある。

 東電の姿勢も厳しく問われている。これまで、基準を上回る賠償は認められないと、かたくなに主張してきた。

 基準は、あくまで一般的な目安である。被害者の個々の事情を踏まえ、誠実に対応しなければならない。

 事故から11年8カ月が過ぎた今も、多くの人々が避難先で生活している。誠意ある償いは、国と東電に課せられた責務だ。

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集