エマニュエル・トッド×與那覇潤 高等教育と大衆が分断した欧州

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エマニュエル・トッドさん=東京都千代田区で2022年11月1日、和田大典撮影
エマニュエル・トッドさん=東京都千代田区で2022年11月1日、和田大典撮影

 1970年代に旧ソ連崩壊を予測するなど、世界的な出来事を各国の人口や家族形態の分析で読み解いてきた仏の歴史人口学・家族人類学者、エマニュエル・トッドさんが来日した。今の欧米は、高等教育を受けた人と大衆の分断が先鋭化していると指摘する。では、日本は? 日本近現代史に詳しい評論家の與那覇潤さんとの対談を2回でお伝えする。【構成・鈴木英生】

 <対談の下は「日本は『ゾンビ徳川時代』?」です>

歴史を学ぶほど悲観的に

 ――與那覇さんは、新型コロナウイルスの感染拡大に際しての大学や研究者の対応を批判して、歴史学者と名乗るのをやめられました。歴史学と同時代との関わりをどう見ますか?

 與那覇 ロックダウン政策のおかしさを自らの知見を踏まえて指摘されたトッドさんと異なり、日本の歴史学者の多くは、コロナ禍でのパニックを無責任にあおるだけでした。さらには日本人全般が、かつて国民すべてを巻き込んだ戦争の体験から遠ざかった今、歴史を自らの生きる基軸にする意味を見失っています。

 世界を見ても「もう歴史を学んで得られる積極的なものは何もない。将来を悲観せざるを得ない時代だ」とする気分が漂っています。トッドさんは歴史を参照することの意味を、今、どう捉えていますか?

 トッド 私は、基本的に楽観主義者です。確かに今は、政治に経済、人口問題、新型コロナからウクライナ戦争まで、悲観的にならざるを得ない材料ばかりです。ですが、人類史には危機も後退もつきものでした。一つの文明が崩壊しても、別の場所で別の文明が生まれます。人類は、必ずよい方へと向かうはずです。

自由民主主義の適用範囲は限界あり

 ――その現在の世界で今、もっとも気になる話題は?

 與那覇 今年のウクライナ危機に関連して「ポスト冷戦時代が完全に終わった」とよく言われます。冷戦終結後、多くの人は、世界中の国がやがて自由民主主義の体制になると信じましたが、それは間違いであることが明確になったと。トッドさんは、歴史を踏まえた未来予測でも知られますが、いつからこうした「すべてが西洋化する」という物語は外れると気づいていましたか?

 トッド 私は76年に旧ソ連崩壊を予測した当時から、ロシアが英米型の国になるとは思っていませんでした。政治体制と家族形態の関係に気づいていたので、社会主義体制が終わった後でも、再びロシアの共同体家族=注=に即した、権威主義的で平等主義的な体制が生まれるだろうと思いました。

 <注>父権が強く子どもは結婚後も基本的に全員同居、遺産は平等に相続する家族形態。権威主義体制と平等主義に親和性が高い。旧共産圏の多くの国はこの家族形態。

 與那覇 冷戦の最中から、そうしたおめでたい歴史観はあてにしていなかったわけですね。

 トッド それどころか、ばかばかし…

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