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宇宙開発への信頼を損ないかねない深刻な問題である。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施した研究で、多数の実験データの捏造(ねつぞう)、改ざんが見つかった。
月や火星を目指す将来の有人探査を視野に、活動する宇宙飛行士のストレス状態を把握するための研究だ。
茨城県つくば市にある施設で2016年から17年にかけて5回の実験が行われ、ボランティア42人が参加した。
宇宙を模した閉鎖環境で2週間過ごし、血液などの採取や検査、面談に協力した。
ところが、その面談結果が捏造されたり書き換えられたりしていた。そもそも評価方法が科学的に妥当かどうかも、事前に検討されていなかった。研究ノートもなく、データを鉛筆で記録するなどずさんだった。
さまざまなデータや検体を取得する大規模な実験に見合う人数の研究者をそろえないまま、進めていたという。
JAXAは「科学的なデータを真摯(しんし)に取得することを軽視する姿勢があった」と謝罪した。研究者としてあるまじき行為だ。
一連の研究は19年に中止され、論文も発表されなかった。2億円近い研究費を投じながら何の成果も出ていない。
JAXAは、論文として公表されなかったことを理由に、「研究不正には当たらない」と説明している。しかし、データを捏造、改ざんすることは不正行為に他ならず、一般の常識からは懸け離れた判断といえる。
この研究には、23年に宇宙へ挑む予定の古川聡・宇宙飛行士が実施責任者として参加していた。実験に直接携わっていないが、研究全体を管理・監督する立場だった。
にもかかわらず、問題を説明する記者会見に出席せず、コメントも発表していない。責任ある対応とは言えない。
JAXAは、小惑星探査機「はやぶさ2」の成功などを通じ、存在感を高めている。
今回の問題は、国民の期待を裏切る行為だ。今後の宇宙開発を着実に進めるためにも、事実を重く受け止め、体制の立て直しを急がなければならない。