「この不自由さが楽しい」 手話裁判劇の稽古場で生まれたもの
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「裁判長」と聞いて、どんな人をイメージするだろう。舞台で手話を使う女性裁判長の姿を見て、記者が思い描いていた「当たり前」が崩れていった。
今秋、神戸で上演された手話裁判劇「テロ」。ろう者と、耳の聞こえる聴者の俳優がペアになって一つの役を表現する演出で、舞台関係者の注目を集めた。演出家は、この劇の目的を「稽古(けいこ)場での時間をつくることにあった」と言う。どういうことか。
「声」だけではない稽古場
本番を1カ月後に控えた9月上旬。初めて神戸アートビレッジセンター(KAVC)の稽古場をのぞいた記者は戸惑った。談笑する俳優同士の会話があまり理解できないのだ。
「それは1人で……」「サッカースタジアムは……」
その場にいた俳優のうち、ろう者と聴者は半々。手話、ジェスチャー、発声が入り交じり、断片的にしか聞こえてこない。全ての言葉を声に出しているわけではなく、記者には分からない内容がある。
手話通訳者が全体での稽古は通訳するが、あちこちで交わされる細かな打ち合わせをフォローできるわけではない。全盲の女性も1人いた。彼女と一緒に稽古する俳優は、声で状況を伝える。
ここまで意思疎通できるようになるには、どれほど時間を積み重ねてきたのだろうか。…
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