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特定の勢力に権力を集中させないという民意のバランス感覚の表れだろう。米中対立の最前線に立たされながらも、着実に民主主義を実践するしなやかさを示した。
台湾の統一地方選で、与党・民進党が敗北し、蔡英文総統が党主席(党首)を引責辞任した。最大野党・国民党の党勢の退潮に歯止めがかかり、2大政党制の枠組みは維持された。
民進党は中国への対抗姿勢を強調して支持拡大を狙った。だが、生活に身近な課題が争点となる地方選挙では奏功しなかった。
与党の経済政策やワクチン調達の遅れなど新型コロナウイルス対策の不備に、有権者の不満が高まっていた。国民党は対中融和路線を封印することで、批判票の受け皿となった。
与野党の明暗を浮き彫りにしたのが台北市長選だ。蔣介石のひ孫である43歳の国民党ホープ、蔣万安氏が当選し、コロナ対策の責任者だった民進党の陳時中氏が大差で敗れた。
蔡氏の求心力低下は避けられない。選挙結果が2024年に予定される総統選の候補者選びに影響を与える可能性がある。
中国政府は、「独立勢力」とみなす民進党の敗北について「主流の民意が反映された」と評価した。ただ、日米との連携を強化して台湾の独自性を守るという現在の路線が否定されたわけではない。
軍事活動を繰り返す中国の習近平指導部に対し、台湾住民の多くが危機感を強めている。総統選では、中国との向き合い方が改めて問われることになる。
台湾では35年前に戒厳令が解除され、政治・社会の自由化が進んだ。今やアジアをリードする民主主義モデルとして存在感を高めている。
今回、21県市の首長選で女性9人が当選し、議会選でも女性の当選者が全体の4割近くを占めた。議席の一定数を女性に割り当てるクオータ制が政治における多様性の確保につながっている。
台湾問題を巡り、習国家主席は平和的解決のため「最大の誠意と努力を尽くす」と表明している。そうであれば、民主社会の存在を尊重しなければならない。力を頼みに統一を迫る限り、台湾住民の心は離れるだけだ。