「かなりやばい」記者会見の舞台裏 伝える工夫、気象庁の模索続く

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台風14号の臨時記者会見で警戒を呼びかける気象庁の黒良龍太・予報課長=東京都港区で2022年9月17日午前11時46分、安藤いく子撮影
台風14号の臨時記者会見で警戒を呼びかける気象庁の黒良龍太・予報課長=東京都港区で2022年9月17日午前11時46分、安藤いく子撮影

 かなりやばい――。接近中の台風への警戒を呼びかける今年の秋の臨時記者会見で、気象庁の担当課長の口から出た言葉だ。災害への危機感を高め、身を守る行動をとってもらうための情報発信はどうあるべきか。記者会見での説明を巡り、気象庁の試行錯誤が続いている。

 9月17日午後10時40分、気象庁2階の記者会見室で開かれた臨時会見。

 黒良(くろら)龍太・予報課長は九州に接近中の台風14号について困惑を隠すことなくこう語った。「衛星画像を見ていて、かなりやばいなと。私が気象庁で働き始めてから見たことがありません」

 3日前に発生した台風14号は16日夜になって急発達。そのまま勢力を強め、17日にはピークに達していた。

 「街の木がバタバタと倒れ、家の窓ガラスが割れることも……」「木造住宅なら寝ている間に屋根が飛んでいくような風が……」。起こりうる被害を問われた黒良課長がそう答えると、報道陣は息をのんだ。

「狩野川台風」警戒に地域差

 気象庁の記者会見は大きく分けて2種類ある。幹部が定期的に行う「定例会見」と、台風や地震の際に行う「臨時会見」だ。

 臨時会見は被害を最小限に抑えるため自治体や住民に警戒や避難を呼びかける目的で開く。呼びかけが的確だったかが後で問われ、見直しを迫られることもある。東日本を中心に猛威をふるい120人超が死亡した2019年の台風19号の臨時会見もその一例だ。

 台風19号の上陸直前の臨時会見で、気象庁は進路や規模が似ている「過去の事例」として「狩野川(かのがわ)台風」を挙げた。静岡県・伊豆半島の狩野川周辺などで被害を出し、1200人超が犠牲になった台風だ。臨時会見のなかで担当者は「狩野川台風に匹敵する記録的な大雨が予想される」と台風19号への警戒を呼びかけた。

 だが呼びかけの効果は気象庁の狙い通りではなかった。

 気象庁が20年2月に公表した住民アンケートによると、「狩野川台風」を挙げたことに対し、静岡県では約6割が「危機感が高まった」と回答したが、関東・東北などその他の地域では3~4割程度にとどまった。なぜ地元を除く住民の危機感を高められなかったのか。61年も前の1958年の台風であることが原因のひとつと指摘された。

 同じく19年に発生し、暴風の影響で千葉県などの約7万7000棟の住宅が被害を受けた台風15号の臨時会見も、後に「危機感が伝わらなかった」と自治体などから批判された。

 これらの反省をふまえ、気象庁の有識者検討会が20年3月に公表した報告書は、過去の災害を引いて警戒を呼びかける手法について、「一定の効果はある」としたうえで、「特定の地域だけで災害が起きる印象を与えないよう、わかりやすい解説を併せて実施」するよう求めた。暴風については「起こりうる被害をわかりやすく解説する」「取るべき行動を併せて解説する」などと提言した。

 気象庁はいま、この報告書に沿うかたちで臨時会見を行っている。過去の災害を引用するときは人々の記憶に新しい「近年の事例」も使っている。

「やばい」発言の真意は

 今年9月17日、気象庁で行われた台風14号の臨時会見。台風の最大風速55メートルと、かつてない数字が示された。

 接近中の台風を「かなりやばい」と表現した黒良課長は、「近年の事例」を挙げた。関西国際空港(大阪府)の連絡橋にタンカーが衝突した18年の台風21号。発生は4年前で、破壊された橋の映像は多くの人の目に焼き付いている。この台風で風速50メートルに達しないにもかかわらず、大きな被害が出たことに言及し、「それ以上の被害が出る可能性があります」と踏み込んだ。

 そして、再び台風14号への危機感に触れた。「(中心気圧)910(ヘクトパスカル)というのは、昭和の最初のころにしかなくて、本でしか読んだことがない。統計でもはっきりと残っていない。衛星写真もない」

 緊迫した空気が広がる臨時会見で「最大限の警戒をしていただきたい」と何度も呼びかけた。

 台風14号は、この臨時会見の翌日、18日午後7時ごろに鹿児島市付近に上陸。九州を縦断して東に進み、20日には東北から太平洋に抜けて温帯低気圧になった。総務省消防庁によると、この台風で5人が死亡し、住宅約2700棟が被害を受けた(11月18日現在)。

 後日、私(記者)が「本」のことを尋ねると、黒良課長はノンフィクションの「空白の天気図」(75年、柳田邦男著)だと明かし…

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