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廃炉が決まった原発の「建て替え」を進める方針を、政府が打ち出した。
東京電力福島第1原発の事故以来、政府は一貫して「新増設やリプレース(建て替え)は想定していない」との立場を取ってきた。
方針転換の背景には、エネルギー確保と脱炭素の両立に原発の活用が欠かせないとの判断がある。だが原子力政策は日本の将来を左右する問題だ。国民的議論のないまま変更することは許されない。
想定されるのは、炉心を水で冷やす従来の原子炉を改良して安全性を高めたタイプの導入だ。「革新軽水炉」と呼ばれている。
電源を失っても自動で原子炉を冷やす仕組みや、メルトダウン(炉心溶融)しても放射性物質を閉じ込めるといった対策を設計段階から講じるという。
三菱重工業など大手原子炉メーカーが開発に取り組んでいる。既存の技術を使うため、早ければ2030年代半ばの稼働を見込む。政府は建て替えだけでなく、将来の新増設も視野に入れる。
しかし、原発を巡って多くの矛盾が露呈している。そんな中での推進は問題を先送りするだけだ。
「安全性を高める」というが、福島の事故では放射性物質を閉じ込める五重の壁が破られた。大規模なテロや災害など、想定外の事態は起きうる。
経済性にも疑問が残る。再生可能エネルギーの発電コストが下がる一方、原発の建設には5000億~1兆円かかる。政府は電力会社に建設費や収入安定化のための支援を検討するという。長期にわたる国民負担が避けられない。
放射性廃棄物の最終処分もめどが立っていない。巨額のカネをつぎこんだ末に「核のごみ」を増やすことにならないか。
日本原子力文化財団の昨年の世論調査では、原発を維持または増加させるべきだとの意見は約1割に過ぎず、「脱原発」を求める声が6割を超えた。
政府は「可能な限り原発依存度を低減する」と、エネルギー基本計画に明記している。にもかかわらず、岸田文雄首相の指示からわずか3カ月で、それが根底から覆されようとしている。
なし崩しで原子力依存に回帰することは無責任だ。