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「生活保護を受けるのは恥ずかしい」など誤ったイメージで語られがちな生活保護制度。この制度は健康で文化的な最低限度の生活を保障するもので、決して恥ずかしいことではありません。必要な生活費が支給され、医療サービスなどが無償で受けられる生活保護制度の仕組みを解説します。
憲法で認められた権利
生活保護制度は、憲法25条で定められた「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権を根拠に設計されました。生活保護を受給している人の数はバブル崩壊後の1990年代後半から急増したものの、今は微減しており、2022年8月時点で約203万人です。
生活保護を受けるにはどうしたらよいのでしょうか。生活保護法の規定によれば、一定の条件を満たす国民であれば誰でも受給できることになっています。その人の社会的身分や、生活が苦しくなった原因や経緯は一切問いません。預貯金や使っていない土地などの資産、働く能力などを活用しても生活が成り立たないことが条件になります。
相談や申請は、住んでいる自治体の福祉事務所で受け付けています。申請すると、生活実態を把握するための家庭訪問や、どのような資産を持っているか調査を受けます。申請から原則として14日以内に生活保護を受けられるか判断されます。
生活保護の受給額は、国で定める「最低生活費」を基に決まります。仮に収入があれば、最低生活費に足りない分だけ支給を受けられます。ここで言う収入は、仕事の給料だけでなく、年金や児童扶養手当なども考えられます。働いていれば生活保護を受けられないというのは誤解です。
最低生活費は、8項目の扶助から成り立ちます。最も基本となる「生活扶助」は食費など日常生活を維持するのに必要な費用です。年齢、世帯の人数、住んでいる場所などによって決まるため、その人の状況によってさまざまです。
受給者の状況に応じて他の扶助が含まれます。主に家賃に当たる「住宅扶助」▽義務教育を受けるために必要な教材・給食代などの「教育扶助」▽病院の受診料などの「医療扶助」▽介護サービス費用の「介護扶助」▽出産にかかる費用「出産扶助」▽就労に必要なスキルを得るためにかかる費用「生業扶助」▽葬儀代の費用「葬祭扶助」――があります。医療と介護の費用は医療機関や介護事業者に直接支払われます。
単身世帯で月13万円
例えば、東京23区内の生活扶助と住宅扶助額(21年4月時点)のモデルケースを見ると、68歳の単身世帯で、生活扶助が7万7980円で、住宅扶助は最大5万3700円で合計約13万円です。母親(30)と4歳と2歳の2児がいる母子家庭では、生活扶助が19万550円と住宅扶助が最大6万9800円で合計約26万円になります。
物価などが変動しているため、生活扶助の水準は5年に1度見直されます。低所得の世帯の消費実態と、生活保護世帯が受給する金額が、バランスが取れているかどうか検証するためです。年収が下から10%の世帯の消費額よりも受給額のほうが高い場合、水準を下げる方向で議論が進むことになります。国は17年に基準額を検証し、18~20年にかけて反映しました。受給者数の減少などの影響も考えられますが、国と地方自治体が生活扶助で使った額は17年度の1兆1570億円から、20年度は1兆535億円と約9%減っています。
役所の「水際作戦」が問題に
生活保護の申請を巡り、役所の「水際作戦」が問題になっています。この水際作戦というのは、生活保護の受給条件を満たしているにもかかわらず、「働けるのではないか」など何らかの理由を付けて申請を諦めさせようとすることです。神奈川県小田原市では、職員が差別的な文言が記されているジャンパーを着用し、業務を行っていたことが問題になりました。
生活保護受給世帯の子どもが大学に通うには、その子どもを生活保護の支給対象から外す「世帯分離」をする必要があります。住宅扶助費は世帯分離しても変わりませんが、子どもは医療扶助から外れてしまうので、国民健康保険に加入して保険料を支払う必要があるなど、一定の課題は残っています。
困窮者を支援する民間団体には「生活保護は受けたくない」「生活保護を受けるなら餓死したほうがいい」と精神的に追い詰められている人の声も寄せられています。
厚生労働省は「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」と呼びかけています。偏見によって、生活保護の申請が妨げられることがない社会をつくる必要があります。【中川友希】