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国内外の異なる部署で取材する14人の中堅記者が交代で手がけるコラム。原則、毎日1本お届けします。

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たかが言い間違い されど言い間違い

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ホワイトハウスのウェブサイトに掲載されたハリス副大統領の発言録。「北朝鮮」の部分に取り消し線が引かれている=2022年12月7日、高本耕太撮影
ホワイトハウスのウェブサイトに掲載されたハリス副大統領の発言録。「北朝鮮」の部分に取り消し線が引かれている=2022年12月7日、高本耕太撮影

 「そんなくだらないこと書くな」と、取材先からも読者からもよく言われます。でも、くだらないことから気付きを得ることもあると思っています。【政治部・高本耕太】

 政治家ら影響力のある公人の問題発言を英語圏、特に米国ではギャフ(gaffe)と呼ぶ。辞書の定義を見ると「社交的または外交的な失敗」(メリアム・ウェブスター社)。日本語で言う失言だけでなく、放言や失態、奇行などを広く含む言葉だ。

 政治家のギャフのうちニュースになるのは失言や放言の部類だ。不適切で不穏当な発言の裏に発言者の本質が透けるからだろう。

 米国のドナルド・トランプ前大統領は2015年6月の大統領選立候補表明演説で「メキシコ人が麻薬や犯罪を持ち込む。彼らはレイプ犯だ」と述べた。国際的な批判を浴びたが、その後も主張を繰り返した。

 葉梨康弘法相(当時)は今年11月、同僚議員のパーティーで法相の職務について「朝、死刑のはんこを押し、それで昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」と発言し更迭に追い込まれた。「外務省と法務省は票とおカネに縁がない」という軽口と合わせて、葉梨氏の本音と受け止められた。

 一方で「言い間違い」に分類される発言が大きく報じられることは少ない。ヒラの議員から知事、閣僚まで政治家は毎日、数多くのあいさつやスピーチをこなす。誤読や言葉に詰まることなど茶飯事だし、政治家に限らず誰にでもある単純なミスをあげつらうだけの報道は健全なものではないだろう。

 ただ、悪気のない言い間違いにも、その人物の立ち位置や心理状態が透けて見えることがある。

 岸田文雄首相は11月11日、官邸で記者団に、「死刑」発言をした葉梨氏を更迭し、後任に斎藤健氏を充てる人事を発表した。発言から更迭まで時間がかかった理由を問われた首相は、少しムッとした表情で「斎藤大臣については昨日厳しく注意を行い、説明責任を徹底的に果たすよう指示を出した」と語った。

 厳しく注意され説明責任を果たすべきなのは、後任の斎藤氏でなく、失言をした葉梨氏だが、首相はその間違いに気付かないまま説明を続けた。自らが率いる派閥に所属する葉梨氏の発言によって、国会が紛糾し、国際会議出席のため同日に予定していた東アジア歴訪の出発は翌日未明に延期。首相のいら立ちと混乱を映したような言い間違いだった。

 また岸田首相は同月21日に官邸で、政治とカネを巡る問題で辞任した寺田稔総務相(当時)の後任に、松本剛明氏を充てると記者団に表明した際、「昨日辞任したタケダ大臣の……あ、失礼」と口走った。その後の衆院本会議で、寺田氏辞任の経緯を説明し陳謝した際も「タケダ大臣」と言い間違え、議場に怒号が飛んだ。周辺は「外交日程や国会審議による疲労がたまっている」と首相をかばい、もらい事故に遭った武田良太元総務相は会合のあいさつで、「寺田じゃなくて武田でございます」と笑いに変えた。

 自民党内には「武田氏を後任に起用する構想があったのでは」との声がある。「武田の起用はダメだ」と首相の耳に吹き込んだ、ある党重鎮の顔が頭に浮かび、思わず「タケダ」と口走ったのではとの臆測もささやかれた。

 菅義偉前首相は在任中の21年1月、新型コロナウイルス感染症の政府対策本部会合で緊急事態宣言の対象7府県を発表した際、「福岡県」と言うべきところを「静岡県」と誤読した。経済や国民生活に大きな影響を与える重大な判断である宣言発令を巡るミス。同月の参院本会議での施政方針演説ではコロナに関し「徹底的な対策」を「限定的な対策」と言い間違えた。相次ぐ誤読を野党は「あまりにも軽い」と批判し、「自分の言葉を持たない首相」とのイメージが作られる一因となってしまった。

 最近、断トツに痛かった言い間違いは、カマラ・ハリス米副大統領が訪問先の韓国で発した言葉だ。今年9月29日、ハリス氏はソウルで尹錫悦大統領と会談し米韓同盟の強化を確認した後、北朝鮮との軍事境界線がある非武装地帯(DMZ)を視察した。ハリス氏は現地で演説し、その冒頭でこう述べた。

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