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福島ユナイテッド農業部 Jリーガーが農作物を育てるワケ

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田植えに取り組む福島ユナイテッドの選手たち=福島市大笹生のカトウファームで2021年6月(福島ユナイテッドFC提供)
田植えに取り組む福島ユナイテッドの選手たち=福島市大笹生のカトウファームで2021年6月(福島ユナイテッドFC提供)

 福島県初のJリーグクラブ、J3福島ユナイテッドFC(福島市)には、「農業部」という耳慣れない組織がある。2014年に発足。選手・スタッフが県内の農家と共同で栽培し、収穫した作物を「福島ユナイテッドFC農業部 選手が育てる農作物」として販売する。リンゴ▽桃▽米▽ブドウ▽洋梨▽アスパラガス――の6品目を育てている。

 片手間ではない。果樹なら木を1本単位、米なら田んぼを1反(約10アール)単位で購入してオーナーとなり、農家の指導の下、年間で全品目計約30回の農作業を行う。桃ならまだ寒い3月、実を大きくするためつぼみを間引く摘蕾(てきらい)の作業から始まり、摘花、摘果、日光を作物の下からも当てて色付きをよくする反射シート敷き、夏の猛暑の中の収穫――といった具合だ。選手は午前の練習を終えると昼食後に手分けして農作業に向かい、夕刻まで作業する。真剣勝負だ。

 農業部が誕生したきっかけは、東京電力福島第1原発事故による農産物への風評被害だった。同市出身の鈴木勇人代表(50)が振り返る。「福島は農業県ですが、農作物が売れなくなり、後継者不足も相まって離農しようとする人も多かった。何としても風評被害を拭い去りたい。スポーツの力を生かして協力できないかと考えたのです」

鈴木勇人代表=福島ユナイテッドFC提供
鈴木勇人代表=福島ユナイテッドFC提供

 当初はアウェーの試合会場で福島の観光パンフレットを配って来県を呼び掛けていたのが、農業部で栽培・収穫した果物や野菜に加えて県内の農産物や加工品を仕入れ販売する「ふくしマルシェ」の出店に発展した。現在ではJ3にとどまらず、提携しているJ1湘南ベルマーレなどJ1、J2の試合会場にも出店。クラブやカテゴリーの垣根を越えて福島の魅力を伝える。

 20年にオンラインショップも開設。21年の農業部全体での売り上げは1300万円に達し、入場料収入とグッズ収入に並ぶ経営基盤として定着しつつあるという。21年にはJリーグが各クラブの社会連携活動を表彰する「シャレン!アウォーズ」で、多彩な連携と持続可能な活動を目指す姿勢が評価され「パブリック賞」を受賞した。

 農業部の「米課長」を務める早稲田大出身の新人GK上川琢(22)は「加入前から農業部は知っていた。地域貢献でパブリック賞も受賞しており、ここに加入したい理由の一つでした」と明かす。

 選手らを受け入れる農家からの評価も上々だ。名湯・飯坂温泉で知られる福島市飯坂町で桃などを栽培する「安斎果樹園」の安斎忠幸さん(45)は「みんな最初から一生懸命作業し、栽培方法など積極的に学んでいる。果物の成長具合についてもよく話します。福島の農産物のいいPRになります」と喜ぶ。

 鈴木代表は断言する。「プロチームなので試合で結果を残すことは不可欠。だが、若い選手が農業と関わり、農家が米の一粒、果実の一玉を、いかに精魂込め苦労して育てるのかを経験することは、地域貢献はもちろん、チームの価値を上げ、選手にも生涯の宝になると信じています」

 ユニホームも地域とのつながりの表現の場だ。17年からは桃の収穫期である夏季限定で桃をモチーフにしたユニホームを公式戦で着用。22年は米の収穫期に、黒地に金の稲穂を描いたユニホーム。来季も斬新なデザインで「福島」を打ち出す。【近藤浩之】

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