名馬に導かれ被災地へ 競馬界で続ける見えないゴールへの挑戦

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「馬たちを通じて人々をつなぎ、感動を広げていきたいんです」と語るシルクレーシング代表の米本昌史さん=北海道苫小牧市のノーザンホースパークで2022年9月22日、貝塚太一撮影
「馬たちを通じて人々をつなぎ、感動を広げていきたいんです」と語るシルクレーシング代表の米本昌史さん=北海道苫小牧市のノーザンホースパークで2022年9月22日、貝塚太一撮影

 山々に抱かれるように馬たちがのびのびと駆けていた。福島・中通りにある競走馬の育成牧場「ノーザンファーム天栄」(福島県天栄村)。日本中央競馬会(JRA)に馬主登録をするクラブ法人「シルクレーシング」代表を務める米本昌史さん(47)=東京都在住=が深呼吸をする。「馬という生き物に向き合い、筋書きのない物語を提供する。本当に奥深いんですよ」

競馬界とは無縁の人生

 37歳になる手前で不動産業から競走馬の世界に飛び込んだ。敬意や感謝をスタッフらにストレートに伝え、馬たちを気遣う姿に、人心や運を引き寄せてきた努力の一端が見えるように思えた。

 ノーザンファーム天栄は、競走馬の生産や育成で名高い「ノーザンファーム」(北海道安平町)傘下の施設で、米本さんの「初任地」でもある。2012年1月に同ファームに入社後、13年1月から提携するシルクレーシングに加わり、14年8月、代表に就任。GⅠ(最高位)レースなどに競走馬を出走させている。

 レースを控えた馬たちが坂路(はんろ)(傾斜を設けた調教コース)を駆け上っていく。その姿を見つめながら米本さんが感慨深げに言う。「『名馬に人生を切り開いてもらったな』って改めて思うんです」

 現役時代に芝のGⅠレースで史上最多の9勝を挙げたクラブ所属の牝馬「アーモンドアイ」もこの牧場で育った。18年4月、阪神競馬場(兵庫県宝塚市)での第78回桜花賞は、クリストフ・ルメール騎手が騎乗して優勝。米本さんの代表就任後、所属馬のGⅠレース初勝利だった。この年、アーモンドアイが牝馬3冠を達成するなどし、以後、クラブは躍進を遂げてきた。

 今、各地のレース会場や牧場、東京の事務所などを忙しく行き来する米本さんは元来、競馬界とは無縁だった。大学の理工学部を卒業後、都市計画や環境問題を学ぼうと大学院に進んだが、…

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