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被害の救済に向けた第一歩である。だが、解決すべき課題は、まだ多い。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への高額献金問題を受け、寄付の不当な働きかけを規制する法律が成立した。
不安をあおるなど、相手を困惑させて、団体が寄付を募ることを禁止する。やめるよう国に命じられても従わなければ刑罰を科す。
「寄付するか否か適切に判断するのが難しい状態に陥らせない」よう配慮する義務も規定し、守られなければ国が是正を勧告する。
困惑した状態で寄付をした人は事後に取り消すことが可能となる。罰則などの規定を除き、公布から20日後に施行される。
法制化のきっかけは、安倍晋三元首相が銃撃された事件を受け、旧統一教会の問題がクローズアップされたことだ。
与野党協議で、立憲民主党や日本維新の会の主張に、自民党が一定の配慮を示し、法案が修正されるという異例の展開をたどった。
実効性高める努力必須
法律が制定されたことには意義がある。しかし、実際に被害防止につながるかは未知数だ。
配慮義務の規定は抽象的で、勧告に従わなかったとしても罰則はない。
寄付をしなければならないと思い込まされて長期間続けた場合、取り消せるのかも焦点になる。
岸田文雄首相は国会で「マインドコントロールによる寄付は多くの場合、取り消し権の対象となると考えられる」と答弁した。
だが、判断するのは裁判所だ。実効性を持たせるには、法律に明記しておく必要があった。
寄付したお金を本人に代わって家族が取り戻せる規定も、生活費の範囲にとどまる上、行使できるケースは限られる。
付則には、施行後2年をめどにした見直し規定が盛り込まれた。それを待たずに、実態に即しているか、国は不断に点検し、修正していくべきだ。
制度を運用する体制の強化も重要である。法律に違反した団体に勧告や命令をするのは消費者庁だが、宗教法人を所管する文化庁との連携が欠かせない。
過去の消費者被害では十分な措置が取られず、拡大を防げなかった例もあった。広く情報を集め、迅速に対応することが必須だ。
新法では、これまでの被害は救済されない。規制対象は施行後に行われた寄付の勧誘であり、別の手立てを検討しなければならない。法律や心理学の専門家が対応する相談窓口の整備も急務だ。
対策や支援が求められるのは、献金被害だけではない。
とりわけ深刻なのは、信者を親に持つ「2世」が抱える問題だ。「信仰を強いられた」「自由な恋愛を認められなかった」「進学できなくなった」などと窮状を訴える声が上がっている。
教団が信者同士の養子縁組をあっせんしていた問題では、「子どもの人権が軽視されている」との批判も出ている。
文化庁は、宗教法人法に基づく質問権を行使して調査に乗り出している。実態を早急に解明し、厳正に対処する必要がある。
宗教理由の放置正す時
旧統一教会の問題が指摘されてから30年以上たつ。にもかかわらず、国はこれまで正面から向き合ってこなかった。
国家神道が軍国主義につながったとの反省から、戦後、憲法に政教分離の原則が規定され、「信教の自由」の保障も明記された。
国や自治体は、宗教絡みのトラブルに極めて抑制的な姿勢を取ってきた。
信教の自由が守られなければならないのは当然である。宗教活動も最大限、尊重されるべきだ。
しかし、いかなる団体であっても、公共の福祉を害する行為は許されない。個人の権利が侵害される事態もあってはならない。
人権を守り、社会の秩序を保つのが行政の役割だ。宗教に関わることを理由に何ら手を打たないのであれば、責任の放棄に等しい。
フランスは、個人の弱みにつけ込む人権侵害などを「セクト的行為」と位置づけ、対策に取り組んでいる。省庁横断的な組織を設け、規制法を制定している。
宗教団体を特別視せず、活動の透明性を確保するための仕組みづくりを求める声もある。
どのようなあり方が日本にふさわしいのか。社会全体で議論を深めていきたい。