紅葉の名所に風車…再生エネが自然破壊? 自治体異例の対抗策
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東北屈指の温泉地で、紅葉の名所としても知られる宮城県大崎市の鳴子温泉郷。10月下旬に記者が訪れると、温泉街を取り囲む山々は紅葉の見ごろを迎えていた。国道47号の大深沢橋から見下ろす渓谷は鮮やかな赤や黄色に彩られ、全国から集まった観光客がカメラを向けていた。
住民団体が反対署名提出
「この絶景の中に風車の羽根が見えるようになるかもしれません」。この地域で夏は林業、冬は除雪作業に携わる曽根義猛さん(52)は、記者の隣でつぶやいた。
大崎市など宮城、山形両県の6市町にまたがる地域では近年、4事業者が計七つの風力発電施設の建設を相次いで計画した。仮に全てが完成すると、伊豆諸島の八丈島とほぼ同じ広さの70平方キロに、高さ最大200メートルの風車が189基もできる計画だった。
風況や電力消費地への送電の効率の悪さ、景観への配慮から、撤回されたり風車の数を減らしたりしたケースもある。それでも172基分が残り、うち10基は2020年5月に工事が始まった。
鳴子温泉郷から車で約1時間半の仙台市出身の曽根さんは、自然の豊かさにひかれて8年前に家族で移住した。休みの日には山歩きや川遊びなどをして過ごし、田舎暮らしを満喫していた。だが20年末、子どもが通う保育園付近で風車の建設が計画されていることを知った。自宅から約2キロの地点にも、風車が建つことも分かった。
地元の環境保護団体の調査では、計画地に希少な渡り鳥の飛行ルートが含まれ、風車に衝突して命を落とす懸念も浮上。「鳴子の美しい自然環境が破壊されてしまう」。曽根さんはその1カ月後、住民団体を設立。計4683筆の反対署名を集め、10月中旬には宮城県庁を訪れて村井嘉浩知事に直接手渡した。
「風力など再生可能エネルギーの重要性は理解している。それでも、一部の地域のみつらい思いをするのは、承服できない」。署名提出後、記者会見でそう語った曽根さんの口調は、穏やかながらも怒りがにじんでいた。
反対しているのは市民団体だけではない。温泉旅館には「風車が建設されたら観光に行きたくなくなる」という観光客の声が寄せられ、今年8月には地元観光協会が建設反対を表明。伊藤康志・大崎市長は今月6日、計画の一つに反対を表明し、県に同調するよう求める文書を村井知事に提出した。伊藤市長は「豊かな自然環境や景観など、地域にとって大切で重要な資源を失うことは非常に不本意だ」と訴える。
計画する4事業者のうち、毎日新聞の取材に応じた3事業者は「風車の見え方や、生活環境への心配はないという調査結果を説明し、ご理解を得られるよう努力したい」(シーエスエス=札幌市)などと説明した。だが、住民団体のメンバーは不信感を拭えないでいる。
脱炭素社会実現には欠かせない再生エネ施設が各地で迷惑施設化している。村井知事は「対抗策」として、…
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