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ロシア軍のウクライナ侵攻、中国の台湾への圧力、北朝鮮の度重なるミサイル発射……。今年は、軍事的緊張を特にリアルに感じた年かもしれません。日本の国境地帯の首長らが一堂に会するセミナーから見えたものを報告します。【オピニオングループ・鈴木英生】
「昨年の暮れ、夜の9時から翌2時まで沖から砲声が聞こえた。おそらく台湾軍の訓練。これが現実です」。糸数健一沖縄県与那国町長が、声をふるわせた。
沖縄県・石垣島にある竹富町役場で先月19日に開かれたセミナー「危機のなかの境界地域」でのこと。北海道根室市、東京都小笠原村など日本の境界(国境)地域の10自治体の首長らが登壇した。私は、約2000キロ離れた都内の自宅でオンライン視聴した。
日本最西端、与那国町のある与那国島は、台湾まで約110キロ。隣接自治体、竹富町との約90キロと大差ない。16世紀に琉球王国が侵略する前は一つの「国」で、明治期まで独自の象形文字さえあった。
セミナーの前日と前々日、日米共同統合演習で陸上自衛隊の16式機動戦闘車(MCV)が島内の公道を走った。2016年に自衛隊駐屯地ができて初とか。糸数町長は「町民を守るため、これ(公道を軍用車両が走る状況)を普通の風景にしないといけない」と力説した。
中山義隆沖縄県石垣市長も尖閣諸島問題で熱弁を振るい、比田勝尚喜長崎県対馬市長は「北朝鮮のミサイルが飛んできたら……。(対馬での)自衛隊増強と韓国との協力関係が必要だ」。
情勢変化で、境界地域の行政当局者の認識は様変わりしたのか。10年前は、毎日新聞で当時の外間守吉(ほかま・しゅきち)与那国町長が「自衛隊誘致は経済対策。安全保障上の抑止力は私には関係ない」と言い切った。対馬市の平山秀樹総務部長(当時)も「(自衛隊に)経済効果を期待しているのが本音」。与那国も対馬も、安全保障は経済振興の方便と見なしていた。
そもそも、このセミナーは、07年、境界地域が課題やニーズを共有し合い、歴史や文化を発信しようと始まった。仕掛け人の岩下明裕北海道大教授は「中央では領土問題しか話題にならない境界地域の、本当の可能性を示したい」と常々強調している。
だが今回は、…
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