連載

まいにちボードゲーム

日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。

連載一覧

まいにちボードゲーム

日本的ミニマリズムの美

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
断片的な情報から犯人を見つけ出す「藪の中」 拡大
断片的な情報から犯人を見つけ出す「藪の中」

 論理的なユーロゲーム、物語性に富んだ米国ゲーム。では日本発の作品の特徴は? 日本人デザイナーも重量級作品で高評価を得ている昨今ですが、やはりカードゲームを中心とした少ないコンポーネントと簡易なルールながら奥深い戦略性が持ち味でしょう。要素をそぎ落としたソリッドなデザイン。日本的ミニマリズムの美が感じられる3作品を紹介します。

小さな箱にコンポーネントがぎっしり 拡大
小さな箱にコンポーネントがぎっしり

断片情報から犯人捜す「藪(やぶ)の中」

 芥川龍之介(1892~1927年)の短編小説に「藪の中」という作品があります。舞台は平安時代。藪の中で見つかった男の死体について目撃者や関係者の証言が入り乱れ、真相が見いだされない。同名のゲームも、断片的な情報から真犯人を探り当てようとします。

手前の横向きに置かれた人形が被害者。その上部の3体が容疑者。手札や他プレーヤーの動向から犯人を推理する 拡大
手前の横向きに置かれた人形が被害者。その上部の3体が容疑者。手札や他プレーヤーの動向から犯人を推理する

 日本的ミニマリズムを語る上で欠かせないのが、ゲーム制作会社の「オインクゲームズ」。ほとんどの作品が、縦11センチ、横6.4センチの小さな箱の中に収められています。住宅事情が厳しい日本にはぴったりですね。「藪の中」はオインクゲームズの社長がデザインした初期の名作。2021年にコンポーネントが一新されてリメークされました。

 横向きに並べられた人形が殺人の被害者。その上に並んだ3体の人形が容疑者です。人形の裏には2~8の数字が記されており、大きな数字が犯人。しかし、容疑者の中に赤い数字の5がいると、小さな数字が犯人となります。被害者と容疑者以外の人形は1枚ずつプレーヤーに配られており、確認したら左隣のプレーヤーへ。つまり2枚の人形の数字を事前に把握しています。

 手番になったら、3人の容疑者のうち2枚をめくってこっそり数字を確認。犯人だと思う容疑者に探偵チップを置きます。時計回りにめくってはチップを置いていくのですが、すでにチップが置いてあれば上に重ねます。全員の手番が終わったら答え合わせ。正解者はチップを箱に戻して勝利へ前進。間違った容疑者にチップを置いたプレーヤーはチップを裏返してしくじりチップとします。この際、重なったチップのうち一番上のプレーヤーだけがしくじりチップを取ることに。後手番の方がヒントが多いのでリスクが高いというシステム。このルールが、あえて低い数字にチップを置くなどの駆け引きを生むのです。

怪人の存在が捜査を惑わす「トリックと怪人」 拡大
怪人の存在が捜査を惑わす「トリックと怪人」

虚偽報告が同僚惑わす「トリックと怪人」

容疑者は9人。2人いる怪人は犯人にならない 拡大
容疑者は9人。2人いる怪人は犯人にならない

 オインクゲームズの小箱からもう1作品。「トリックと怪人」も犯人当てゲームです。プレーヤーは捜査官となり事件の犯人を突き止めようとします。1ラウンドに2回事件が発生し、徐々に情報が開示されていく中、ライバルの同僚たちを出し抜くことができるでしょうか。

容疑者として手札から1枚場に出してカードと同じ色の情報トークンを置く。怪人カードならどの色のトークンを置いても構わない 拡大
容疑者として手札から1枚場に出してカードと同じ色の情報トークンを置く。怪人カードならどの色のトークンを置いても構わない

 容疑者はカードで表された9人。「藪の中」同様に一番大きな数字が犯人となるのですが、特定の条件下では犯人が変わります。例えば一番大きな数字である10の「政治家」と2の「バー店主」が同時に容疑者となった場合は「バー店主」が犯人に、自分以外の容疑者が5以上なら犯人となる3の「運び屋」など。簡単には推理できません。

犯人を当てたプレーヤーが得点するが、間違えて怪人を犯人と指摘してしまうと…… 拡大
犯人を当てたプレーヤーが得点するが、間違えて怪人を犯人と指摘してしまうと……

 基本は4人戦です。まずは9枚の容疑者カードと2枚の怪人カードをシャッフルして各プレーヤーに2枚ずつ配布。残り3枚はこのラウンドでは使用しません。手番になったら手札から容疑者として1枚裏向きに場に出して、カードの色に応じた情報トークンを配置。これによって容疑者の数字がある程度推察できるのですが、怪人カードの場合、どの色のトークンを置いても構わないので厄介です。全員が容疑者カードを出し終わったら、最後にカードを出したプレーヤーから犯人と思うカードに虫眼鏡チップを置いていきます。

 全員が推理したらカードを公開。犯人を当てたプレーヤーは、「4から置いてある虫眼鏡チップの数を引いた」点数を得ます。つまり1人だけ当てると3点。4人とも当てたら0点です。犯人となった容疑者カードを出したプレーヤーも1点獲得しますが、怪人を犯人だと勘違いしたらマイナス点に。さらにラウンドは続き、残り1枚の手札をつかって次の事件を捜査します。今度は最初の事件の4人の容疑者は除外されるため、さらに推理の精度が上がるという仕掛け。怪人というスパイスがピリッと利いた佳作です。

お姫様にラブレターを渡すため、城内の人々に協力を求める「ラブレター」。こちらはスペイン人デザイナーのケン・ニイムラ版 拡大
お姫様にラブレターを渡すため、城内の人々に協力を求める「ラブレター」。こちらはスペイン人デザイナーのケン・ニイムラ版
カードはわずか16枚。手番では山札から1枚引いて1枚場に出すだけだが、深い戦略性がある 拡大
カードはわずか16枚。手番では山札から1枚引いて1枚場に出すだけだが、深い戦略性がある

お姫様のハートを射止めろ「ラブレター」

 最後は、日本的ミニマリズムの金字塔「ラブレター」を。わずか16枚のカードと5分もあれば理解できるシンプルなルールですが、カード効果と構成の妙はベテランゲーマーをもうならせます。プレーヤーはお姫様にあこがれる若者たち。姫に恋文を渡すために城内のさまざまな人物の協力を得ようとします。海外でも高く評価され、バットマンやスター・ウォーズ、クトゥルフ神話などフレーバーを変えたさまざまなバージョンが発売されています。

 手札は1枚。手番になったら山札から1枚引いて1枚場に出し、カードの効果を適用するというだけ。山札がなくなるか1人以外がすべて脱落するとゲーム終了。カードには1~8の数字で強さが設定されており、一番強い8が恋の相手の「姫」ですが他のカードによって捨て札になると即脱落。このほか他プレーヤーと手札を交換する「将軍(強さ6)」、攻撃を防げる「僧侶(同4)」など多士済々。一番弱い「兵士(同1)」が実は強力で、指名したプレーヤーの手札を当てたら脱落させられるのです。序盤は「兵士」の効果によってたまたま脱落させられてしまう運任せなところもありますが、ゲームが進むにつれ残りのカードが分かってきたり、なぜこのカードが出されたのかを読めてきたり。がぜん楽しくなってきます。

 中国に「壺中の天(こちゅうのてん)」という故事があります。壺(つぼ)の中に飛び込むとそこは別世界で立派な建物が建ち並びごちそうが並んでいたとか。日本らしい小さな作品に秘められた大きな世界を感じ取ってみてはいかがでしょう。【野地哲郎】=次回は12月31日掲載

「藪の中」データ

 2~5人用◆所要時間20分◆9歳以上対象◆佐々木隼作◆2010年初版

「トリックと怪人」データ

 2~4人用◆所要時間15分◆9歳以上対象◆斎藤隆作◆2017年初版

「ラブレター」データ

 2~4人用◆所要時間20分◆10歳以上対象◆カナイセイジ作◆2012年初版

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集