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年の瀬に1年を振り返ると、最も衝撃だったのは安倍晋三元首相の銃撃事件でした。時には励まし、時には諫言(かんげん)もいとわず、安倍氏に助言を続けてきた財界人の逸話を紹介します。【論説室・野口武則】
森友・加計学園問題で野党から追及を受けていた2017年、ある財界人が安倍氏の携帯電話にショートメールを送った。安倍氏が疑惑を認めようとせず苦しい答弁を続けていた時期だ。
「あなたは論語の勉強が足りない。『吾(われ)十有五にして学に志す。 三十にして立つ。 四十にして惑わず。 五十にして天命を知る。 六十にして耳順(したが)う』。あなたは60歳を超えたけれど、耳に逆らっていてはだめです」
安倍氏は同年7月23日の対談イベントで「国民が今の状況にどういう考えを持っているかに、耳を傾けていかなければならない」と語った。そして論語のこの一節を引用し、「私はあまり人の話を聞かないイメージがあるけど、結構人の話を聞くんです」と会場の笑いを誘った。
財界人は別のメールも送った。三国志の英雄・諸葛亮が、先帝・劉備の遺子である劉禅に書いた「出師(すいし)の表」の一節だ。
「『先帝、臣(しん)の謹慎なるを知る。故(ゆえ)に崩(ほう)ずるに臨み、臣に寄するに大事を以(もっ)てす』。謹慎の2字を忘れてはいけません」
謙虚に慎むことの大切さを説くこの部分が、出師の表の核心なのだという。
安倍氏は同年8月3日、内閣改造の記者会見の冒頭で「さまざまな問題が指摘され、国民の大きな不信を招いた。改めて深く反省し、国民におわび申し上げたい」と述べ、長々と頭を下げた。
19年秋に首相主催の「桜を見る会」が問題になった際、財界人は私に、安倍氏との親密さをこう話していた。
「送られて来た招待状に『60番』と書いてあった。安倍さんが推薦してくれたのでしょう」
「60」とは、マルチ商法で行政処分を受けた「ジャパンライフ」元会長の招待状に記されていた区分番号だ。安倍氏は明確に認めていなかったが、「首相枠」ではないかと野党が追及していた。
メールの送り主は、…
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