元寇か黒船か 日本人が知らないEVの巨人ついに上陸 その勝算は

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BYDが日本市場に投入する電気自動車(EV)「ATTO3」=横浜市で2022年10月19日午後1時42分、福富智撮影
BYDが日本市場に投入する電気自動車(EV)「ATTO3」=横浜市で2022年10月19日午後1時42分、福富智撮影

 「BYD」と聞いて、ピンとくる人はどれほどいるだろうか。中国の電気自動車(EV)メーカーで、EVでは米大手テスラに次ぐ世界2位のメーカーだ。そんなBYDが2023年1月に、日本の乗用車市場に本格参入する。中国ブランドのEVはどのようなものなのか。日本市場で勝算はあるのか。

 ドアの内側に突き出した円筒形のスピーカーに、横長のシフトレバー。BYDが来年1月31日に日本で発売するスポーツタイプ多目的車(SUV)タイプのEV「ATTO3(アットスリー)」の運転席に座ると、そんな内装が目に入る。スポーツジムと音楽がデザインのテーマという。ドア内側のポケットのような部分にはギターをモチーフにした3本の赤いワイヤがあり、弦のように指ではじくと音も鳴る。

 細長いフロントライトやバックライトなど、外観は流れるようなラインを強調したデザインだ。独アウディやメルセデス・ベンツなど欧州ブランド出身のデザイナーを起用したといい、BYDというロゴがなければ欧州車と見間違うようなデザインだ。

 実際に運転すると、アクセルの反応もなめらかで走り出しも静か。市街地を約2時間半ほど運転したが、バッテリーの電力はほとんど減っていなかった。高速道路を走る機会はなかったが、街中で運転するには十分な性能だ。BYDはこの車を世界戦略車として開発し、今年2月に中国国内で発売。オーストラリア市場などにも順次投入しており、10月末までの世界販売台数は14万3000台という。

自動車では後発

 ここで、BYDがどのようなメーカーなのか振り返っておこう。

 同社は、もともとは1995年に広東省・深圳(しんせん)で設立されたバッテリーメーカーだ。社名は「Build Your Dreams」の頭文字だという。創業者の王伝福氏(56)は大学で冶金(やきん)物理化学を専攻した研究者で、国有の研究所を辞めて創業。パソコンや携帯電話の普及によるバッテリー市場拡大の波に乗って急成長した。自動車メーカーとしては後発で、参入したのは03年。経営危機に陥った国有自動車メーカーを買収して足がかりとした。得意の電池技術を生かせるプラグインハイブリッド車(PHV)やEVに注力。09年にはEVの量産を開始し、中国国内ではEVの乗用車やバスがタクシーや路線バスとして使われている。

 現在は世界70カ国・地域でEVを展開しており、調査会社のマークラインズ(東京都)によると、22年1~10月の世界販売台数は66万3000台(トラック・バスを除く)でEVメーカーとしては米テスラに次ぐ世界2位だ。日本でも15年からEVバスを販売。日本のEVバス市場では7割のシェアを持つという。また、日野自動車やトヨタ自動車とも提携しており、トヨタは中国市場向けEVを共同開発した。

 中国の大手自動車メーカーはほとんどが国有企業で、日本やドイツなど海外メーカーから技術を取り入れて拡大してきた。BYDのように、異業種から参入した民営企業は珍しい。

未開の市場・日本

 そんなBYDが、このタイミングで日本の乗用車市場に参入するのはなぜか。…

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