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ウクライナ侵攻

ロシア軍がウクライナに侵攻。米欧や日本は対露制裁を決めるなど対立が先鋭化しています。

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消えたチャイコフスキー演目 侵略国の文化は「排除」されるべきか

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ウクライナ国立歌劇場バレエ団による演目「ドン・キホーテ」=横浜市で2022年12月16日、大前仁撮影
ウクライナ国立歌劇場バレエ団による演目「ドン・キホーテ」=横浜市で2022年12月16日、大前仁撮影

 ロシアから侵攻されているウクライナでは、敵国ロシアに由来する舞台作品の上演が自粛されている。そのため、今月開催されているウクライナのバレエ団の日本公演では、人気作品が上演されない事態となっている。チャイコフスキーのあの名曲もだ。侵攻以降、ロシアを芸術界から締め出す動きはウクライナだけにとどまらず、世界各国で広がっている。侵略国の文化は制限されるべきなのだろうか。【大前仁】

 ウクライナ最高峰といわれる同国の国立歌劇場バレエ団は12月中旬に訪日し、ツアーを始めた。初日の17日は横浜市で公演し、近世のスペインを舞台にした演目「ドン・キホーテ」を上演。多くの観客はウクライナの現状にも思いをはせていたようで、惜しみない拍手を送っていた。

ウクライナバレエ団に起きた異変

 同バレエ団は「旧ソ連3大バレエ」の一つに数えられ、日本でもおなじみの存在だが、今回のツアーでは異変が起きている。帝政ロシア時代の音楽家チャイコフスキーの曲を使った作品が上演演目から外されたのだ。そのためクリスマスを題材とし、世界各地の劇場で年末年始の風物詩となっている「くるみ割り人形」も上演されない。

 ソ連崩壊前の1989年に制定されたウクライナ憲法では、ウクライナ語を国語と定めたが、現地では91年の独立後も言語や文化を巡り、複雑な状況が続いた。2012年には東部や南部に多いロシア語を第1言語とする住民を念頭に置き、特定の地域でロシア語などを公用語として認める法律が制定された。全土でロシア語のテレビ番組も報じられて、ロシアに由来する舞台作品も人気を博した。

 一方でロシアのプーチン政権は2000年代半ばごろから、ソ連崩壊後に各地に取り残されたロシア系住民とロシアとのつながりを強調し、影響力を拡大しようとする動きを露骨に見せてきた。ウクライナで政変が起こり、親露派政権が崩壊した14年には、対抗措置として南部クリミアの併合に踏み切った。

 この後、ウクライナも自国からロシアの影響力を取り除く方向へと急旋回していく。一部地域でロシア語などを公用語と定めていた法律が撤廃されたほか、ロシア語を使用するウクライナのテレビも「ロシア政府の放送塔」とみなされて、22年2月までに閉鎖された。

ロシアの影響力そぐため

 そして今年2月にロシアから軍事侵攻を受けると、ウクライナの最高会議(議会)は6月、一部例外を除いてソ連崩壊後にロシア人が作詞作曲した音楽を公共の場で演じることなどを禁じた法案を可決した。さらにロシアと同調するベラルーシ、ウクライナ国内のロシアの占領地域で出版された書物の輸入も禁じている。ロシアの影響力をそぐ動きとして、その対象を文化の領域にも広げたのだ。

 「くるみ割り人形」以外にも、「白鳥の湖」などチャイコフスキー作曲のバレエの人気演目は数多い。また「1812年」などの交響曲も広く知られてきた。今回制定された法律では、帝政ロシア時代に生きた彼の作品は制限対象に該当しないのだが、長年、ロシア文化を代表する存在と目されてきたことから、劇場側が上演の自粛に踏み切った形だ。

 チャイコフスキーを「排除」し、「白鳥の湖」も「くるみ割り人形」もないバレエ――。観客を納得させることはできるだろうか。

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【ウクライナ侵攻】

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