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まいにちボードゲーム

日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。

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番外編 潜入「グループSNE」

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グループSNEの事務所が入居する雑居ビル=神戸市中央区で2022年12月9日、野地哲郎撮影 拡大
グループSNEの事務所が入居する雑居ビル=神戸市中央区で2022年12月9日、野地哲郎撮影

 国内のボードゲーム出版社はどうしても東京というイメージですが、地方発の元気な会社も多数あります。「グループSNE」(神戸市中央区)もその一つ。海外SF・ファンタジーの翻訳家としても名高い安田均さん(72)が設立。古典的なユーロゲームから盛り上がるパーティーゲーム、近年はマーダーミステリー(プレーヤーが事件の中の人物になりきって、手がかりと交渉を通じて解決を目指す1回きりのゲーム)まで幅広く出版しています。年の瀬に同社を訪ねてみました。

創作集団からスタート

ビルの3階に事務所を構える。外からは何の会社か分からない=野地哲郎撮影 拡大
ビルの3階に事務所を構える。外からは何の会社か分からない=野地哲郎撮影
出版書籍・ボードゲームなどが所狭しと並ぶ事務所=野地哲郎撮影 拡大
出版書籍・ボードゲームなどが所狭しと並ぶ事務所=野地哲郎撮影

 神戸の中心地・三宮から新神戸駅方面に向かって10分ほど歩くと左手に雑居ビルが。そのビルの3階にグループSNEが事務所を構えています。入ると出版物や新製品の資料などが所狭しと積まれていて雑然としていますが、会社の勢いを感じますね。

社長の安田さん。博覧強記ぶりに驚かされる=野地哲郎撮影 拡大
社長の安田さん。博覧強記ぶりに驚かされる=野地哲郎撮影

 筆者にとって安田さんといえば、中高時代に読んでいたSF・ファンタジー小説の翻訳者であり、日本発ファンタジー小説のベストセラー「ロードス島戦記」(水野良作)の原案者。レジェンドともいうべき存在に会えるとあって緊張と感激に震えていましたが、安田さんは優しい笑顔で迎えてくれました。

 神戸出身の安田さんは灘中、灘高、京都大とエリートコースを進み、大学時代にSF・ファンタジーと出会って翻訳の仕事を始めます。卒業後は総合商社に就職しますが、翻訳の仕事が忙しくなって約6年で退職。「ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)」などのTRPG(テーブル・トーク・ロールプレーイング・ゲーム)を紹介したり、1980年代にブームとなったゲームブックの翻訳に携わったり。ついにはゲーム創作サークルを母体に87年、ゲームに関わる創作・翻訳クリエーター集団であるグループSNEを立ち上げました。

ボードゲームができるまで

 TRPGや「モンスターコレクション」などのTCG(トレーディング・カード・ゲーム)、ゲームの世界観を元にした小説などを矢継ぎ早に発表。2013年からは自社製のボードゲーム、カードゲームを出版するようになります。

若者に大人気のヒット作「テストプレイなんてしてないよ」=グループSNE提供 拡大
若者に大人気のヒット作「テストプレイなんてしてないよ」=グループSNE提供

 海外デザイナーの場合、「翻訳家として海外の人とつながるうちに、版権の切れた作品を出さないかという話が持ち込まれたりして」と安田さん。巨匠ライナー・クニツィアの過去作をリメークしているのはやっぱり長年のコネクションがあってのことなのですね。17年にパーティーゲーム「テストプレイなんてしてないよ」(2~10人用、1~3分、クリス・シェスリク作)の日本語版がブレーク。これまで国産含め約200タイトルを発売しました。

 海外タイトルの場合、企画が持ち上がってから2~3年かかるといいます。イラストなど実際の制作は2~3カ月。自社にDTP(デスクトップパブリッシング)デザイナーがいるためにスピーディーですね。中国の印刷工場にデータを入稿して完成まで2~3カ月。近年は新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争の影響で物流コストが急騰していることが悩みだといいます。

和菓子からゲームデザイナー

近くのマンションにある作業場では、黒田さんが作業中=野地哲郎撮影 拡大
近くのマンションにある作業場では、黒田さんが作業中=野地哲郎撮影
泊まり込みの際にはこのソファがベッド代わり=野地哲郎撮影 拡大
泊まり込みの際にはこのソファがベッド代わり=野地哲郎撮影

 国産ゲームの責任者は、自身もデザイナーである黒田尚吾さん(39)。8年前まで和菓子製造会社に勤務していたという変わり種。自作ゲームを宣伝するため続けていたポッドキャスト(インターネットラジオ)の取材で同社を訪れたことがきっかけ。意気投合した安田さんが「アイデアがあるし馬力もある」と会社に誘ったそうです。

犯人に指名されないよう必死で言い訳を考える「そういうお前はどうなんだ?」のカード 拡大
犯人に指名されないよう必死で言い訳を考える「そういうお前はどうなんだ?」のカード

 黒田さんらがゲーム制作にあたる作業場は事務所近くのマンションの一室。パソコンはもちろん、各種資料やテストプレー用の机、泊まり込みに備えてソファも。黒田さんは「サークルのような会社で自由さが魅力。その分、自分が必要な人材だと証明するために継続的に結果を出す必要があります」。自身がデザインしたカードゲーム「そういうお前はどうなんだ?」(3~6人用、20分)は、気軽なパーティーゲームながら設定が凝っています。ある洋館でパーティーが開かれた翌日、死体が発見されます。参加者は誰を警察に突き出すか、適当に決めてしまおうとするのです。カードが出されるたびに不利な証拠が積み重なり、自分が犯人にされないために言い訳をするゲーム。勝ち負けよりもプレーヤー全員で一つの物語を紡いでいくところが楽しいのです。

 グループSNEでは、15年から公募作品コンテストを実施しており、「ギャンブラー×ギャンブル!」「ドワスレ」「即身仏になろう!」などが製品化されています。いずれもメカニクスと設定に一ひねりある作品ばかりです。

 書籍など含め年間40~50タイトルを出版するグループSNE。安田さんは「人間の片方の脳はアナログに向いている。デジタルとアナログのバランスを取らないと面白いものは生まれない」と言います。どのゲームでもアイデア、テーマ、ストーリー性が大事だとも。近年、マーダーミステリーに力を入れているのもうなずけます。今後の展開が楽しみです。【野地哲郎】=次回は1月14日掲載

「グループSNE」データ

 1987年設立◆従業員22人◆神戸市中央区加納町2の9の20◆ホームページhttp://www.groupsne.co.jp/index.html

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